襤褸まとう忠狼
Work by もっさん
帝国軍がマーレ村に到着したのは馬を走らせて3日後のことだった。
ひんやりとした朝もやを突っ切って進んでいった先、そこにある変わり果てた故郷の有様にルカは絶句した。
周辺の林は炎に巻かれたのか軒並み葉が散っており、地面は焦げ付いて沈んだ色をしている。
村の出入り口にある門は跡形もなく朽ちており、もはや内と外の境界すらない。その向こう側に無残な様をありありと晒していた。
「とんでもないな……」
誰ともなくこぼされた言葉だったが、否定する者もいない。
多くの家屋は焼き尽くされたのだろう。数日前まで本当にここには集落があったのかと、疑問を抱くほどに、そこには燻ぶった瓦礫の山しかなかった。
馬から降りた帝国軍の面々は、周囲を警戒しながら村の中心部である広場へと歩みを進めていく。ルカにとっては慣れ親しんだ場所だったが、懐かしい思い出とは裏腹にもはや面影は微塵もない。
商店の組合が手入れしていた花壇も、漁師たちが水揚げした魚を並べる干し棹も、子供たちが地面に書いた習いたての拙い詩編もない。
人懐っこく行儀のよい外飼いの犬も、おこぼれを狙う野良猫もいない。
帰省する度に優しく頬を撫でてくれる潮風も、鼻をつく不快な匂いの中では分からない。くわえてその匂いが家屋の焼けた焦げ臭さだけでないことを悟り、ルカは胃の中がひっくり返るような心地がした。
(落ち着け。なすべき事をなすだけだ)
様々な感情を押しとどめながらルカは前を見据える。
気持ちは相変わらず重苦しい渦を巻いており、心身を叩きつけるように激しく暴れているが、今の自分には任務がある。立ち止まることは許されない。
(軍人が膝を折るのは国に忠義を誓う時だけだ……)
家族はどうなったのか。どこにいるのか。どうしてこんなことになったのか。
思考が縦横無尽に暴れるが、何も考えたくはない。思索の海に沈めば沈むほど、底に見えてくるのは望まぬ光景だ。
しかし、いずれは行きつく先であることもどこかで理解はしている。望んだ訳でもないのに乗せられた船の、その落ちゆく速度に気持ちが追いつかないだけで、士官候補生として培った冷静な分析は見たくもない海底をずっと照らし続けている。
「これより部隊を分けて周囲の探索を行う。各自、事前に割り当てられた担当区画に分かれろ」
最前方にいる部隊長が号令をかけると、周囲の隊員は足早に四方に散り始めた。
一瞬遅れをとったものの、ルカも指定された区画へ続こうと背を返した。すると不意に、背中をぽんと軽く叩く感触がある。
振り返れば同じく探索のため、士官学校から選抜されたジトレが片手をひらりと挙げ、駆けていくところだった。
おそらく彼なりの励ましだろう。出立までの間、そして到着までの道中、こちらから特に言及することはなかったが、おおよその事情は汲んでいるはずだ。
ましてジトレとは親元から離れて一人で都まで来た者同士、出身地や家族の話をする機会も多く、何くれとなく支えあった仲。思うところがあったのだろう。
(らしくもない気の遣い方をする……)
人がどれだけ気落ちしていても、いつも通りの距離感でちょっかいをかけてくる。常であればジトレはそういう奴だ。
それは一見、無神経にも見えるだろう。
しかしそれは下手に遠巻きにもせず、かといって傍で慰めてくる訳でもない関係を保ち、再び立ち上がるのを待つという彼なりの労りである。
気持ちを持ち直し新たに踏み出したとて、それを殊更取り上げるでもなく軽口を叩き、日常に引き戻してくれる。ジトレはそういう気遣いをする奴だ。
あいつが背中を叩いてきて、じんと痛まなかったことなど今まで一度もなかったというのに。自分はよほどひどい顔をしていたらしい。
ルカは誰にも気づかれない程度に細く長い溜息をついた。ジトレにあんな気の回し方をさせるなんて不本意極まりない。
しかし、だからといって沈痛な面持ちが和らぐことはない。――これから自分には、避けようのない厳然たる事実との対面が待っているのだ。
「集合せよ!」
少し離れた入り江の方から掛け声が聞こえ、ルカは今度こそ駆けだした。
幼い頃、弟と連れ立って遊んだ広場を後にし、母が贔屓にしていたパン屋の横を抜ければ、すぐである。
目的地の入り江は、子供の時分では随分遠くまで冒険したつもりになっていたが、大人の足で走れば大したことのない距離だ。それを知ったのは、士官学校の入学試験に備えた鍛錬の時だったか。
(……家族に会いたい)
深海の底には大きなクジラの骨が沈んでいるのだと、漁師の父に教わったことを今になって思い出した。
今回の調査では村の中と外、二つの部隊に分かれて探索を行うことになっており、ルカは土地勘が必要となってくる村外の探索部隊に入れられた。
村の中を調査する部隊では生存者の探索と遺体の回収を主とするが、村外では住民たちが何者かに襲撃された可能性を考慮し、賊などが潜伏していないか探ることになっている。
ルカが先導したのは入り江や山林など、人が隠れる余地のある場所を探査する部隊だったが、これといって特に不自然な所は確認されなかった。
元々このあたりは土壌が貧しく、農作物がそう多く取れる訳ではない上、漁村としても豊かな方ではない。ルカの記憶でも「奪うものがないから襲う価値もないと思われてるんだよ」と村の人々はよく笑いとばすほどに安穏な土地だった。
その言葉の通り、林にも入り江にも賊、もしくは何者かが潜伏していたと思われる形跡は一つも見つからなかった。
結局、数日に渡る探索の後、村外を調査する部隊は「周辺に不審箇所および残存戦力なし」と結論付け、村中を調べる部隊に合流することとなった。
ルカが家族と再会を果たしたのは部隊合流後の初日、その夜のことだった。
「ルカ。……礼拝所の方へ行けってよ。身元の確認がしたいんだと」
野営地のテントで調査記録をまとめていたルカをジトレが呼ぶ。
思わずびくりと肩を揺らしたのは、書類仕事に集中して気配に気づかなかったためか、それとも、いよいよこの時が来てしまったと現実を突きつけられたからなのか。
いずれにしても任務に帯同する士官候補生としてではなく、遺族として呼ばれたのだと理解して、ルカは身を固くし浅い息を漏らした。
眼前の任務に没頭することで一時的に頭を切り替えられていると思っていたが、それでもこの数日間ずっと体の奥深くは鉛のように重たかった。
家族に会いたい気持ちと会いたくないという気持ちがない交ぜになり、収集がつかなくなっていたが、いよいよ終止符を打つ時が来てしまったようだ。
「……分かった」
努めていつも通りの声色で返答したつもりだったが、思いの外か細い声で返してしまう。しかし、それを茶化すこともなくジトレは軽く頷くとテントを出て行った。その場に残っていてはこちらを急かす形になると思ったのだろう。
遠のいていく足音をぼんやりと聞きながら、ルカはうるさいぐらい早鐘を打つ胸を強く押さえた。
(落ち着け、落ち着け……落ち着け……)
いついかなる時でも平常心を保つため、心理的な訓練も積んできたというのに、全く身になっていないことを痛感する。
無理やり腹から深呼吸をしてみても、激しい動悸が収まる気配は一向にない。
全身から水分が出尽くすのではないかというくらい汗が噴き出してきている。額の汗を拭おうとすれば手が震えており、指先を丸め込んでも抑えがきかない。
こういう時ほど平時と同じように行動せねばと頭では考えるも、したためていた書類を机の隅に揃え、インク瓶に蓋をするという何気ない所作すらおぼつかない。
業を煮やしたルカは机上をそのままにして席を立った。
椅子を机に引き戻すこともせずにテントの出入り口をくぐる。書類仕事に入ったのはまだ空が茜色の頃だったが、今やとっぷりと日が沈んでおり、野営地には獣除けの焚火があちこちで焚かれていた。
手近なカンテラを手に取って焚火の一つから火を移し、村の方へと重い足を引きずるようにして歩く。
野営地は村から少しばかり離れた場所に設けられていたが、徒歩で向かっても軽い散歩ほどの距離だ。すっかり日が暮れた今から往復したとしても大した手間じゃない。
そのはずだが、これから待ち受ける出来事、自分が直面しなければならない現実を思うと途方もないくらい長い道のりに感じられた。
頼りない明かり一つを持ち、焼け朽ちた村の門を通り過ぎる。瓦礫の集積所と化した広場を抜ければ、程なくして遺体の安置場所となっている礼拝所にたどり着いた。
この礼拝所は村で唯一、石造りの建造物だったため、かろうじて最低限の壁や屋根を残している。そのため身元を選別するまでの間、回収された遺体は全てこちらに運び込まれる手はずとなっていた。
現にルカも今日から参加した村中の探索では、瓦礫の下から墨色の遺体を数人、掘り起こして礼拝所の床に寝かせている。
片田舎の小さな礼拝所が次々と担ぎ込まれた遺体で埋め尽くされていく様は、顔を背けたくなるほどだった。
煤に汚れた外壁をしばし見上げた後に、意を決してルカは礼拝所の最奥へと歩を進めた。
自身が手に持つものと同じく、携行品として支給されたカンテラを傍らに置いた男性が暗がりで振り返る。検死官だ。
昼間に遺体を一つ一つ診ていた人物だが、その時と違って今は片手に薄い封筒を持っている。
「ルカ・ベルソルツだな。こちらへ」
夜の冷えた空気の中で、静かだが芯の通った声がルカを招く。
上官に呼ばれたら直ちに馳せ参じなければならないという反射から、重苦しい胸中とは裏腹に速やかに前へと足が動く。しかし、その気持ちはさながら処刑を待つ囚人のようだった。
一歩一歩と終わりに向けて自分の足で歩かされる時間。腹の中から底冷えする心地だった。
こちらへ、と検死官が手の平で指し示す先には、礼拝者用の長机に寝かせられた大袋が一つ。
ちょうど大人の背丈ほどの大きさだと認識した瞬間、ルカの背筋には冷たい汗がつたう。昼間にも同じようなものを嫌になるほど目にしていたからだ。
「アルバスタ・ベルソルツ。相違ないか」
告げられた名に心臓が跳ね上がり、思わず双眸が見開かれる。
検死官が袋の端の方にある合わせを割って見せたそこには、生気のない顔で瞼をおろす父の顔があった。
「相違は、ないか」
重ねて淡々と尋ねてくる検死官にルカは掠れた声で応える。
「……はい。間違いなく」
カンテラの明かりに照らされた、自分と同じ紺碧の髪を確認する。少し頬がこけてはいるが、いつか帰省した時と変わらない面立ちや首元からうかがえる壮健さは、確かによく知る父親の姿だった。
違うことと言えば、血の気が一切ない顔色だけだ。
「サリナ・ベルソルツ。そしてこちらがレガロ・ベルソルツ。相違ないか」
父が寝かせられている机の数歩奥にも同様に、机上に並べられたものが二つある。検死官が一つ一つの袋を開けて中に納められた人物に明かりを寄せ、母と弟の名を告げてくるのにルカはぎこちなく首肯を返した。
「君の一族が非常に強健であることは聞いていたが、火事の現場に居ながら全く外傷がないとは驚いた。髪の毛一本も焦げていないとは」
検死官は机上に置かれていた書類に何事か書き込みをしながら、茫然自失としたルカに向けて続ける。
「今回、引き受け先がない遺体を帝都へ移送する事は、君も聞いているな。身体を内外問わず調べあげる予定だ。逃げもせず、燃える家屋の中に留まり続けるという、不自然極まりない状況に理由を見出せるような何かが見つかるとしたら、もはや検死結果しかなかろうと上は睨んでいるようだ」
平坦な声色でつらつらと述べる検死官の言葉は、ルカの頭に留まることなく通り過ぎていった。
家族の顔を見下ろし、返答も満足にしなくなってしまったルカに対して、特にこれといって思う所もなさそうに検死官はペンを走らせる。
視線を彼の手元に移して見れば、それは遺体の引き取りを了承するか否かを決める書面のようだった。
紙の上をペン先が滑る音しか聞こえない時間が続くことしばし、検死官は書き上げたばかりの三枚の紙をルカの方へ差し出してきた。
「君のご家族は今回の事件における調査対象として、不適だと見なされた。あまりにも外的要因を反映しない身体だからな。ざっと診たが、瓦礫の下敷きになり炎に晒されていたにも関わらず、外傷らしいものが一つもない。内臓の方も無傷だろう。なんせ、君たち一族は生涯、病気をすることなく天寿を全うするイクス。その身の強健さから鑑みれば、本件におけるこれ以上の調査は無意味」
検死官はそこで言葉を切り、一呼吸おいてから続ける。
「……君たちは長く歴史のある一族だが、その身体メカニズムについては解明されていないことも多い。私個人としては大変興味深く、今回の件とは関係なしに今後の研究のため、是非とも検体として帝都に持ち帰りたいところだが、どうだね?」
無言のまま書類を受け取ったルカは、逡巡することなく署名した。
「……家族には静かに眠ってもらいます」
検死官の無神経さに腹を立てるほどの余力もなく、かろうじて声を絞り出すのがやっとだった。
返された書類の文面を一応、といった態度で丁寧に指でなぞって確認した後、検死官は顔を上げる。
「そうか。それは残念だ」
さして執着もなさそうな顔でこちらを一瞥すると、仕事は済んだとばかりに彼は、封筒を押し付けさっさと出ていってしまった。
ルカの胸にあてがわれたそれには、おそらく家族三人分の検死結果が入っているのだろう。しかし封を開ける気には到底なれない。
どうせ中身は分かり切っているのだ。「何も分からないことが分かった」などと不毛な文面に目を通す気力など、もう残っていない。
そうして薄い封筒を腕に抱えたまま、ルカはゆるゆると顔を家族たちの方へ再度向けた。
黙して語らない彼らの寝顔は安らかそのものだ。炎に焼かれ消し炭のようになった村民が多いなか、ルカの家族は煤汚れこそついているものの、それを拭ってやれば顔色以外は生者と変わらぬほどだった。
遺体が回収されてから比較的早く、遺族である自分が呼ばれたのも、このためだろう。丸焦げになった遺体よりは随分と身元が辿りやすいはずだ。早くに対面できたことだけは幸いだったのかもしれない。
(いや、これのどこが幸いだ?一つとして『良かった』と思えることなんてないはずだ……!)
一人になった途端に思考が頭の中で氾濫し始める。
周囲には遺体が多く転がされ、生者は自分ただ一人。積み重なる遺体袋の山々と、頼りないカンテラの明かり以外に暗闇しか存在しない状況が、余計にルカの押しとどめていた喪失感を募らせてくる。
人目がなくなったことで、それまで水際で取り繕っていた体裁さえも、どうでもよくなってきてしまった。
「なんで」「どうして」と、頭全体に子供の癇癪のような言葉が鳴り響き、堂々巡りを始める。
まるで自分が自分でないような不愉快な感覚。喉の奥がひどく乾いて熱く、ひきつり、頭が中心からガンガンと鈍く痛い。今に眩暈さえ起こしそうなほどだ。
これまで堪えてきたものがじわじわとこみ上げてきてルカは奥歯を強く食いしばったが、代わりに喉奥が低く唸った。
(なんで俺の家族がこんな目に遭わなきゃいけないんだ……!)
こんこんと湧き出る感情につき動かされるままに、ルカは冷たくなった父の胸元に縋り付いて顔をうずめた。
「なんでだよ……!」
震える口元から嗚咽まじりに漏れた悲痛な問いかけは、答える者もおらず夜闇に頼りなく溶けていった。
なぜ家族が死んでしまったのか?いったい家族が何をしたというのか?罪を犯したわけでもなければ、人として道理に反するでもなく、ただ田舎でつつましく暮らしていただけだというのに。
自警団長として危険な仕事も進んでこなしていた正義感の強い父。いつでも穏やかで気遣い上手な母。お調子者だが勤勉で愛嬌のある弟。ごくごくありふれた家庭だったはずだ。
これからも変わらず普通の幸せをおくるはずだったのだ。それが前触れもなく全て壊れてしまった。
自分だけを残して。
(父さんも、母さんも、レガロも、もう……いない……!)
頬を伝う雫が次々と遺体袋の生地に吸い込まれてはシミになっていく。
ルカはまるで幼子がぐずって親にすがる時のように、無意識に傍らにある父の顔を見上げた。
しかし、当然だが父は動かない。母がなだめてくれる事もなければ、弟がからかってくる事もない。
彼らの笑顔や穏やかなまなざしがこちらに向けられることは二度とないのだと、そう思ったらもう限界だった。
「――うあああああ!」
獣の咆哮ような慟哭が礼拝所に響く。激情が意味をなさない叫びとなり、喉を切り裂くような感覚さえしたが、それでもルカにはこの感情の発露を止めることはできなかった。
「なすべき事をなすだけ。軍人が膝を折るのは国に忠義を誓う時だけ」と、幼き日に武勲詩を聞かせ、武人としての哲学を説いてくれた父はもう何も答えてくれない。
涙声で顔をぐしゃぐしゃにしながら都へ送り出してくれた母も、自分と同じく軍人を目指すと声高に誓いを立てた弟も同様だ。
彼らはもう言葉を発することもなければ、身を動かすこともない。ただ、置物のように横たわっているだけだった。
幼い頃に深海の底にある途方もない世界を怖がり、ぐずった自分を抱き上げてくれた父の温かく大きな腕を思いだす。機嫌をとろうと優しく微笑みながらこちらを覗き込む母。父の足元でからかうようにけらけら笑う弟の声。それらを思い出すと、苦しくて堪らなくなった。
軍が派遣されてからこちら、礼拝所に収容された遺体の調査は徐々に進んでいった。
検死自体は専門的な施設内ではないため簡易的なものではあったが、本格的な調査をするまでもなく明らかになった事実の数々に調査隊は首を捻った。
遺体に殴打痕や創傷、手足を拘束された形跡が確認されなかったためである。
つまり、何者かに火災の現場に無理やり置き去りにされた、というような人為的な事件の可能性が見いだせなくなってきたのだ。
このことは村外調査での結論や、近隣集落への聞き込み――近ごろこのあたりで金銭や人さらい目的の強襲はなく、治安はむしろ安定していたという旨の報告――が上がっていることからも補完されている。
軍が当初もっとも懸念していた、武力勢力が組織だって村を襲ったとする推測は弱まりつつあった。
また、遺体の身元確認も少しずつ進んではいるが、回収される数の多さと戸籍などの記録を照らしあわせると、村民のほとんどが既に死亡しているのではないかと予測が立てられている。
加えて生存者がいるのか周辺を探索し、近隣の集落に流れ着いた村民がいなかったか聞き込みを行ったものの、今のところそのような者がいたと報告は上がっていない。
今回の事件に関して、可能性として低いと見なされてはいたが、何らかの自然現象が起因していないか、村周辺の環境調査も平行して行われた。
例えば地中から催眠効果のあるガスが漏れだし、村人が寝入った後に村中に充満して軒先の松明などの小さな火種から引火した等。
偶然に偶然が重ならなければ起こりえない仮定だが、検証せざるをえない程に究明への糸口が掴めない状態だった。
そのため軍の方で領内における災害や公共事業の記録を取り寄せ、付近の地質や河川、山林等の状態に異変がないか一通り調べあげられたが、これといって疑わしい場所は見つけられなかった。
村外での異変はない。
村へ賊の類が入り込んだ形跡もない。
村民たちは命の危険がありつつも、燃え盛る家屋の中に居続けた。
しかも消火活動も避難も一切行われず、何故かだれもかれもが屋内に倒れている。
この状況を全て結びつけられる妥当な推測は、現状ではひとつも出てきていない。
むしろ情報をかき集めていくほどに、不可解な状況が露わになっていくだけだった。
このことから真相解明を求め、軍が最終的に注目せざるをえなかったのは、回収された遺体である。身元を割り出した後に引き取り手のない遺体は軍が所有するものとし、帝都へ移送して本格的な検査が行われることになっている。
現地で出来る調査はあらかたし尽くした、不可解な状況への答えがでるとしたら解剖等の専門的な検死だろうと、いったん結論づけ軍は段階的な撤退を決めた。
こうして瓦礫の撤去と遺体の回収を行う部隊を少数だけ残し、大多数は数日中に帝都へ帰還することとなった。
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