襤褸まとう忠狼

第11章 煤色の猛犬

Work by もっさん

あれからどれだけの月日が過ぎていったか、ルカにはもう分からない。
村に比較的近い数々の神殿や街を回ったが、全て空振りに終わってしまい、ルカはあてどなく市井を巡ることになった。
根も葉もない風説であっても数多あまたの人を頼り情報をかき集め、地の果てまでの存在を追い求め続けて幾星霜いくせいそう
灼熱の荒野を踏み越え、暗澹あんたんたる渓谷を渡り、極寒の氷原を彷徨った日々。
その最中さなかで何もかもが無駄なのではないかと幾度となく諦観がよぎった。これだけ痕跡が辿れないとあっては、もしやあの子供は既に人知れず死亡しているのではないかと。
ありえない話ではない。運わるく野盗に遭った、猪や狼に襲われた、あるいは山林の中や沿岸の崖上で足を踏み外したなど、可能性は数えきれないほどある。
しかし、立ち止まりかける度に記憶の底からは、家族の寝顔が、手袋にしみこんだ土の湿り気が、深く名を刻んだ墓標の冷たさが呼び起こされ、雑念を蹴散らすようにルカの体を前へと押し出していった。

とはいえ、何一つ掴めるものはなく、時間は空虚なまま通り過ぎていくだけだった。
一日、一か月、一年、二年、三年……それ以上はもう数えていない。
積み重なる虚しさに耐え切れず、ルカはいつからか時間を意識しないようになっていた。
手帳の暦を見なくなり、月が上がろうが日が下りようが気にせず調べものに明け暮れ、東西南北を足を棒にして駆けずり回る。その繰り返しが日常となっていった。
年月の経過自体は数えなくともそう差し支えることはなかった。
しかし反対に、どうしても数えなくてはならないものも存在した。
金だ。ついに路銀が尽きた。
日雇いの仕事は何度もやってきたが、今日明日きょうあす食うのを凌ぐ程度の金では意味がない。動くための、追うための、まとまった資金が必要なのだ。

財布にある硬貨が片手で数え切れる枚数となった頃、とうとうルカはなけなしの路銀を握り帝都へ戻ることにした。
だがこれは、けっして恩師を頼るためではない。
地下・・に潜るためだ。
士官学校時代、とある噂を聞いたことがある。
なんでも帝都の地下には法の手も届かない無法な社会が形成されており、夜な夜な闘技の場が催されていると。
士官学校にいた頃は与太話だと思っていたが、方々を駆けずり回ってあらゆる情報を集めていく間にどうやら事実らしいと知った。
地下というだけあってそこに集うのは当然、無頼漢ぶらいかんばかり。生死を問わず相手を戦闘不能にした方が勝者という、あってないような取り決めの下、ならず者達がしのぎを削っているらしい。
その代わり勝ち上がっていけば、表舞台では到底得られないほどの大金を、一夜にして手に入れられると言われている。
極貧の中、ルカはそこに活路を見出した。
人死にがでるほどの戦いを見世物としている場には嫌悪感を禁じ得ないが、この際、背に腹は代えられない。
ペンダントと懐中時計の二つだけを連れ、ルカは非合法な世界に身を投じることにした。




まどろみの中、数えきれないほど繰り返し見てきた夢が顔を出す。
力なく横たわるような画角は、炎這いずる床に転がった貴石を介したもの。

(いつもの……いや、違う)

今日は全てがいやに克明だった。貴石越しに見ている映像というよりも、今まさに目の前で繰り広げられていることを、自身の四肢で感じ取っているかのようだ。
村人たちの阿鼻叫喚の声は頭に打ち付けるように反響し、手足は業火に舐められているかのような錯覚さえする。
――あの氷河のように凍てつく瞳も、背中越しの父親ではなく、まるでルカ自身を見通しているかのようだった。
底知れないまなざしを睨み返した瞬間、家屋が崩れる轟音と共にすさまじい熱気が巻き上がる。
うつつへ意識が浮上する感覚の中、子供の顔を覆う不揃いな髪の隙間から、紫の色合いがこぼれるのをルカは見逃さなかった。




「起きろ十七番!出番だ」

どら声に叩き起こされ、ルカは緩慢に顔を上げた。
暗くあちこちで雨漏りをおこしている部屋の出入り口で手燭を持った男が一人、こちらを見下ろしている。
十七番。そういえば、ここでの呼ばれ方は番号だったなと朧げな意識で思い出す。
それでこの男は確か闘技場の案内役だったか、とぼんやりしているルカに苛立ったような怒鳴り声が畳みかけられる。

「寝ぼけてんじゃねぇよ、さっさと来い!」

びりびりと響く大声にようやくはっきりと覚醒したルカは、衣服の上からまとった襤褸布ぼろぬのを引きずりながら立ち上がった。
石がむき出しになり、鼠が走る床から湿った埃が舞い立つが、汚れを払うこともせず部屋を出る。
外に出ると暗く、かび臭い通路で男が品定めするようにルカを見下ろしてきた。

「行くぞ。今更怖じ気づいたとか言うつもりねぇよな」

あえて敵愾心てきがいしんを煽り相手の冷静さを奪おうとするのは、この手の輩によくあることだ。

「言う訳ない」
「結構なこった。ついて来い」

挑発的な言葉には反応せず淡々と返した後、男に先導され闘技場の入場口へ向かう。
進むにつれ前方から風の流れを感じ、いよいよかとルカは体を左右に伸ばした。寝起きだからか体のあちこちがよく鳴る。

「しかしまぁ、よくこんな所で寝れんなぁ。太ぇ奴」

のんきだと思われたのか振り返ることもなく言う男の声は、呆れと嘲笑半々だった。
自分でも同感だと思ったので、反論はしない。
ここに至るまでに随分と神経が擦り切れてしまった。常人らしい感性はとっくに薄らいでいると自覚はある。

「寝心地はそんなにわるくなかった。それに、いい夢も見れた」

肩を回しがてらルカが答えると男は、けっ、と吐き捨てるように喉奥を鳴らした。

「すかしてんじゃねぇよ、いかれ野郎。それより、やることは分かってんだろうな」

鉄の匂いが混じる向かい風に乗って、こもった歓声が聞こえてきた。

「戦って勝つ。それだけだろ」
「馬鹿が!お客さん方は常に刺激的な試合をご所望だ。勝敗は二の次。殺しあってくるのがお前の役目なんだよ」

歩みを進めるにつれ沸き立つ声が振動となり、何度も足元を揺らしてくる。
今この時にも、さぞかし心躍る命の懸けあいが繰り広げられていることだろう。
ルカは頭からかぶった襤褸布の下で僅かに眉をひそめたが、男が振り向いてきたため、すぐさま表情を改めた。

「返事がねぇなぁ、十七番」

威嚇なのか下から舐めるように睨みあげてくる男の視線を正面から受け止め、ルカは平坦に応じる。

「わかった。今夜、最も目が離せない殺し合いを見せよう」

輩をあしらうため、心にもないことを言う舌根は滑らかだった。

「たいした大口だなぁ」

小馬鹿にするように鼻で笑った男は、脇の壁に背をもたれると、前方の入場口を顎でしゃくった。

「なら、またここでお前を出迎えられるよう神に祈っとくぜ。……さぁ行きな!」

胸元にある二つの形を握りしめた後、照明がまばゆく照らす見世場小屋にルカは躍り出た。




「なんだあいつ、見ねぇ奴だな」
「誰だろうと構やしねぇ!とっとと始めろ!!」
「兄ちゃん、そんな細っこいナリでやれんのかぁ?おっさんのケツでも舐めてる方が稼げんだろぉ」

上方の観覧席から降ってくる、聞くに堪えない野次の応酬に晒されながら、ルカは袖をまくり指の関節を鳴らした。
開けた周囲を取り囲むのは円形の壁。容易に跳び越えられぬほど高くそびえ立つそれは、観客の安全を確保すると共に、参加者の逃走を阻むためのものだろう。
足元を見れば、先ほどまでのじめじめとした石造りの通路とは違い、乾燥した土が敷き詰められている。

(なるほど)

異なる施工に秘められた意図に気づくのは、すぐだった。
そこら中に赤いしみができている。
暗い色をした石の上よりも明るい土の上にぶちまけた方が見た目に派手だろうと、趣向をこらしたといったところか。

(ここまでくると、いっそ感心するな)

心中で浮かんだ言葉とは裏腹に呆れかえっていると、わっと観客たちから野太い声が上がる。
期待みなぎる声援が向かう先を見れば、向こう正面の入口からも対戦相手が出てくるところだった。
大人の背丈ほどもある大斧を片手に持ち、屈強な男がゆっくりと進み出てくる。
気だるそうではあるが、どっしりとした足取りで地面を踏みつけながら歩く様は、くぐってきた修羅場の多さと、そこから裏打ちされる余裕を感じさせた。

「今日もぶちのめしてやれよ!お前にたんまり賭けてんだ!」

観客のげきから察するに、どうやら相手はこの闘技場における猛者のようだった。
熱気あふれる周囲を無視し、ぎょろりとこちらへ眼光を向けてくる男に、ルカは唇を湿らせる。
油断はできない相手だ。ただ――

「両者、はじめ!」

脅威ではない。
審判役の火蓋を切る声が高らかに響くと同時に、ルカは土埃を蹴立けたて相手の懐に滑り込んだ。
身を屈めて重心を落とし、得物を振り回されるよりも先に、みぞおち目がけ渾身の力で拳を叩きこむ。
ごっ、と短く鈍い音と、男の喉から弾け出た息が耳横をかすめた。
狙い通りいいところに入ったと、簡素な皮当て越しの感触に確信する。そのまま重たい巨躯きょくを打ち出した気合諸共きあいもろともふきとばした。
その場に大斧だけを残し、壁面へとしたたかに叩きつけられた男は、どさりとくずおれ沈黙する。
だらりと四肢を投げ出したところを見るに、昏倒したようだった。

「……判定」

高所の安全圏にいる審判に催促する。意識がなく、反撃ができないのなら戦闘不能と見なしていいだろう。
ルカと目が合った瞬間にようやく我に返った様子の審判が、静まり返った会場で右手を上げる。

「勝者、十七番……!」

一拍遅れてから観客達は快哉かいさいを叫んだ。




闘技場を眼下に見下ろせる、垂れ幕に覆われた隠し部屋。
薄暗い一室で興行主である裏組織コルヴォ・ディ・フェッロの首領バルクセインは、長椅子に腰かけるとおもむろに口を開いた。

「相変わらずの荒事好あらごとずきよのぅ。皇帝陛下ともあろう御仁ごじんが、こんな下層に来ていると知れたら外聞に差し支えよう」

若々しい見た目にそぐわぬ老成した口調で呈された苦言は、琥珀色の視線と共に眼前の人物に向けたものである。

「だからこうしてお前に特別席を用意させたのではないか。得心とくしんずくのくせに今更何を言う」

バルクセインの対面の長椅子に座る男――皇帝ゼアスは不敬な言動を意に介さず、涼やかに目元だけで笑った。彼はほのかに灯された燭台の光の下、一枚の書類を熱心に読み込んでいる。
博徒たちの喧騒を気に掛けることもなく、バルクセインはからす羽色ばいろの長髪を耳にかけ、葉巻に火をつけた。目の前のテーブルへ視線を下ろした彼は、少しばかりうんざりしながら煙をくゆらせる。

「それで、お眼鏡にかなう人材はいたのかのぅ?それ・・を用意させるのも面倒じゃ。今回限りにしろ」

それ、と示されたのは卓上に散らばる書類だ。
書面には今回、闘技の場に参加した命知らず達の身上が事細かにまとめられている。
バルクセインも試しに一枚、手に取るとさわりの部分を何か所か拾い読み、すぐに卓へ放り投げた。
ろくな事が書かれておらん、と呟く声に何の感慨も乗っていないのは、単に分かり切っていることの再確認だったためだろう。
葉巻の煙を宙に吹き、バルクセインは再び億劫そうに口を開いた。

「傍で使う駒くらい、こんな掃きだめで物色せずとも真っ当な経路から調達したらどうじゃ。お前が先帝を打倒し、今の座についてからもう随分と経つ。この頃は火種になりそうな者を少しずつ、取り除けているんじゃろう?であれば軍部の全てが信用ならん訳でもあるまいて。品定めならそちらでしろ」

苦言を右から左へ流していたゼアスは、相変わらず手に持つ書類から視線を外さず、微笑のまま答える。

「まだ十分ではない。先代の子飼こがいが多すぎる。くすぶっているものを完全に潰すには、もうしばらく時間も労力もかかるだろう」

それに、と続けたゼアスはバルクセインへ一瞥を寄越した。

「犬を飼うなら成犬ではなく子犬から育てたい性分でな。前の飼い主の癖が残っていない状態から躾がしたい」

聞く耳を持たない姿勢に、バルクセインは煙と共に細い嘆息を吐き出す。お前の相手は疲れると言わんばかりの風情で肘掛に寄りかかってから、彼は呆れの滲んだ声を上げた。

「では青田買いでもすれば良かろう。士官学校にいる……確かフェデルタと言ったか。あの者から見繕ってもらったらどうじゃ。あれは人ではなく国に仕え、忠誠を固く誓う身と名高い。簒奪さんだつした位であっても、お前が帝国の君主である限りは二心ふたごころなく、とりさばいてくれよう」

進言を受け、ふむ、と顎に指を添えるゼアスは、少し考えるような間を置いてから答える。

「わるくはないが、最良の選択肢ではないな」

信の置ける男ではあるが、と付け加えたゼアスは言葉をもったいぶっているように首をかしげた。
ふくみのある様子にバルクセインは瞳を眇め、面倒そうに先を促す。

「では、お前の最も良いとする択は何じゃ」
「――犬が飼い主に忠実なのは何故だと思う?」

依然として意識を書面に注いだまま、ゼアスの口から出てきた突飛な問いかけに、バルクセインはいよいよ鬱陶しそうな視線を返した。

「なぞかけか?児戯じぎならつき合わんぞ。ものの例えだとしたら迂遠うえんじゃ」
「気の短い奴だ」

ゼアスは笑みを崩さないまま、手首をきかせて顔前から書類をついと退けると、足を組んで前のめりになる。

「恩があるからだ」

しっとりと改まった調子でげんを落とすゼアスは、感情の読めない薄い笑みをたたえたまま論を展開する。

「飢えることのない十分な餌と、夜明けを迎えられる安穏な寝床――つまり、本能が希求するものを満たしてくれたという絶対的な恩。それがあるからこそ犬は首輪をつけられ多少、窮屈な思いをしていたとしてもこうべを垂れ、命じられれば手を差しだし、腹も見せる」

ゼアスが言い切ると同時に、雄叫びや怒号がない交ぜになったものが階下かいかを揺らした。
命と金を天秤にかけた末の殺し合いが、今宵も殺伐とした地下を振るわせている。
言わんとすることを理解し、バルクセインは下層を流し見た。

「恩を売って信頼を買い、人を取り立てると。はたしてお前の言う芸が覚えられるほど賢い犬が、この掃きだめで見つかるかのぅ。加減もできず殺すことしかできん、『待て』すら覚える気のない駄犬ばかりじゃが」
「それが今ちょうど、血統書付きの迷い犬を見つけたところだ」
「……何?」

怪訝な応答を返すバルクセインにゼアスが手に温めていた一枚を差し出すと、受け渡しの瞬間にひときわ大きな歓声が沸き立った。
手元に寄せた書類に目を通したバルクセインは思案顔になり、記載された名前と下で大立ち回りを演じる男を交互に見る。
主催者としてこの闘技場では初めて見る名だが、その姓には覚えがあった。

「ベルソルツ……。アルヴェリターレの、どこぞかの傍系かのぅ」

件の人物は煤色に汚れた襤褸布で全身をつつみ、顔を窺い知ることはできない。しかし時折、裾からのぞく紺碧色の長い髪が、むさくるしい空間の中で妙に印象的だった。

「下馬評などあてにならんな。前回優勝者があのざまだ」

愉快そうに言うゼアスの視線の先で煤色の男――ルカは対戦相手である大男の滅多切りを片腕だけで受け止めている。
攻守が完全に固定した状態だったが、その膠着が長く続くことはなかった。
斬撃が乱れ始めた頃合いを見逃さず隙をついたルカによって、急所を微妙に外したところへと拳が叩きこまれる。
優勝候補と目されていた男は顎下から打ち上げられた後、間髪いれず追撃によってあっけなく地面に叩き落された。
勢いあまって地に弾む巨体の様にゼアスは呵々かかとして笑った。

徒手としゅであそこまでの衝撃を叩きこむとは恐れ入る。しかも、あれでまだ致命とならぬよう加減をする余裕まであるとは。初出場でとんだ番狂わせを見せてくれるな」

ひとしきり哄笑するとゼアスは煤色の衣から目を離さずに続ける。

「ルカ・ベルソルツ。マーレ村の出身。元は士官候補生だったが、家族を一度に亡くしたことから喪に服し、巡礼に出るため士官学校を退校した、と」

好奇から瞳を細めるゼアスとは対照的に、バルクセインは書類片手に首をかしげた。

「マーレ村……。あの、一晩で烏有うゆうしたとかいう、呪われ村の出身か。まさか生き残りがいたとはのぅ。てっきり全滅したのだとばかり」

こめかみに指を添え、考え込むように呟いたバルクセインを横目に見つつ、ゼアスは問いかける。

「原因不明の大火事で村民が全員死亡。その後の捜査でも手掛かりなしのため不審火扱いで調査終了か。……村について、噂で聞き知る通りだがこれ以上の情報はないのか?」

顔を上げたバルクセインは小さく唸った。

「情報と言われてものぅ。この身辺調査で新たに分かった事があるのなら、そう書かれているはずじゃ。帝国軍の捜査もとうの昔に打ち切られ、今は更地しか残っとらんのに、調べようもあるまいて」

不足か?と問い返すバルクセインに、ゼアスは視線を下層に戻しつつ首を横に振った。

「いや、単なる興味で聞いただけだ。身元さえ確かなら構わない」

バキャッと派手な音を立てて壁面に大男が打ち付けられる。意識を手放したらしい男はずるりと尻もちをつくと、そのまま項垂うなだれ動かなくなった。
勝敗がついたと見て、高らかに勝者の名が宣言される。前代未聞の大金星を目撃し、興奮の坩堝るつぼと化した客席は激しく波打った。
沸き立つ眼下にゼアスは笑みを深め、満足げに一息つく。

「あの猛犬を所望するのか。躾には難儀しそうじゃが」

ため息交じりにバルクセインが確認すると、ゼアスは不敵に口角を上げる。

「なに、すぐに手なずけ忠犬にしてみせる」

熱気に触発されたのか、ゼアスは卓上に用意されていたウイスキーを手酌で呷った。二杯目を注ぐと今度はグラスを手にしたままゆったりと、背もたれに深く体を預ける。
カラリと氷を回し少しだけ口につけると、彼は対面のバルクセインへと向き直った。

「在学時の席次は随分優秀だったようだ。能力は申し分ない。それに家族を悼むため巡礼に出ている敬虔さも良い。篤実とくじつな人柄はまさに求めるところだ。士官学校を中退しているようだが、復学させれば外聞的にも問題なかろう」

ゼアスが次に言う言葉を先読みし、バルクセインは壁際に控えていた部下を目配せで引き寄せる。

「ルカ・ベルソルツをここへ呼べ」

命ずる皇帝の声は喜色に満ちていた。

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