襤褸まとう忠狼

第9章 幕開けの鳥

Work by もっさん

「見送りだなんて、そんな……」

出発日の朝方早く、まだ夜も明けきらない頃。ルカのしぼんだ声は、寒気の中で白い息となって溶けた。
ほのかな闇の中、片手にトランク一つを持ち、地面にむき出しとなった霜を踏みしだいていく。
追っているのは少し先を行くフェデルタの背中である。

「通用門の開閉ついでだ。お前が出ていった後、どのみち誰かが施錠しなければならない」

首だけ軽くこちらに振り返り、フェデルタは鍵束を鳴らして示した。
士官学校の敷地には複数の通用門がある。その中でも寄宿舎から続く表通りに面した門は、日中であれば開放されたままだが、夕刻から日が昇るまでの間は鍵がかけられている。
帝都からマーレ村までの中継地に区切りよくたどり着くため、ルカは日が昇る前にはもう出る必要があった。
そのため規定時間前の開門を事務方に申請していたのだが、事前に指示された場所で落ち合った施錠係は、なんとフェデルタだった。

「お気持ちは嬉しいのですが、まさか教官がいらっしゃるとは思わなかったので……」

恐れ入りつつよく見れば、彼は訓練日でないにも関わらず、朝から直剣をいている。という事は、今日は宮廷に伺候しこうする日なのだろうか。
多忙なはずなのに申し訳ない、とルカが身を小さくしながら後に続いていると、再び前方から声がかかる。

「わざわざ私が来なくとも、他の手隙な者に任せることもできたろうに、と考えているな」

図星を指されたルカがそろそろと頷くと、フェデルタは前へ向きなおり、いつも通りの泰然とした様子で続けた。

「言っただろう、『託されている』と。お前を一人で発たせたとなれば、アルバスタに顔向けできん」

父との約束を引き合いに出されれば、これ以上申し訳なそうにするのもかえって無礼かもしれない。思い直したルカが恐縮ではなく、ひたむきな感謝を口にすると、フェデルタは肩越しに頷いて応えてくれた。
そこで不意にルカは、前を歩くフェデルタの背中が常よりも少し大きく感じることに気が付いた。

(いや、違う。近いんだ)

ほんの少しだが、フェデルタがいつもより歩調を緩めている。ゆえに互いの距離が近くなり、結果的に背中が大きいと錯覚したようだった。
奇妙で些細な違和感を解消したルカは、師の後ろ姿を言葉もなくじっと見つめた。
――通用門までの距離はそう長くはない。現にもう木立の向こうには、閉ざされた門扉を認めることができる。

(……)

理由に思い至るのはすぐだったが、それを指摘する気にはならなかった。
残りの僅かな時間を惜しんでいるというのなら、自分も同じだ。しかしそれを指摘すれば、余計に別れがたくなるような気がしてならない。
この期に及んでここを発つ決心が揺らぐことはないが、しかし、この数か月ほどで自身が存外、意気地なしだということは痛感させられている。
今この時、胸中にかげりが一つもないかと問われれば、首を縦に振ることはできない。
そのためルカは追従して歩を緩め、次にいつ会えるか分からない恩師の広い背中を、記憶に焼き付けるようにとっくりと見つめた。
とはいえ、もともとの道程が短い。あっという間に門前にはついてしまった。

「少し待て。今、開ける」

先導していたフェデルタが立ち止まり、錠前に鍵が挿しこまれると、がちゃりと開錠される音がした。続いて鈍く重い音を響かせながら、鉄製の門扉が外へと開け放たれる。
人ひとり分が通れるだけの隙間を確保し、「いいぞ、通れ」と前を譲られ、ルカは促されるままフェデルタの脇を通り抜けようとした。
しかし、境界を踏み越える寸前、一度だけくるりと寄宿舎の方を振り返った。
葉が枯れ落ちた並木の隙間から、慣れ親しんだ建物がぼんやりと窺える。

(もう後ろを振り返るつもりはなかったのにな……)

士官学校で過ごす日々は長いようで短い、そんな数年間だった。
特に寄宿舎は志を同じくする学友たちと寝食を共にし、日ごとに仲を深めていった場所だ。離れる間際になって思い出が脳裏に去来し、つい後ろ髪を引かれてしまった。
互いに励ましあい、切磋琢磨を重ねる日々が刹那に浮かんでは消えていくが、その中に一人、へらりと能天気に笑う奴の姿がひときわ強く残っている。

(……また、会える)

今もまだ部屋で横になっているだろう同輩へ、声には出さない願いを向けてから、ルカは改めて前へ踏み出した。
外の往来はかなりの早朝ということもあり、人通りは皆無だった。日ごろ活況かっきょうを呈する商店通りも戸を下ろしており、立ち並ぶ家々も物音ひとつなく沈黙している。
首を巡らせ遠くを見やれば、市街にはまだ朝支度のための煙すら上がっておらず、ひっそりと静まりかえっていた。
そのまま目的地の方角へ顔を向ければ、紺色の空を太陽がほのかに照らし、徐々に紫色へと変化させていくところだった。
沈鬱な記憶が体の奥底で波立つ。
――あぁ、あの時と同じ光景だ、と。
抱きかけた感傷を振り払うように、ルカは曖昧に滲む空から背いた。
これからやるべきことは多いのだ。いちいち沈んでいてはきりがない。

(歩き出すと決めた。そうだろう)

自身に言い聞かせ、ルカは共に門外へ出てきたフェデルタへと向き直った。

「忘れ物はないな」
「はい、何度も確認しました」

問うてくる師にトランクを軽々と持ち上げて見せる。

「それに、荷物は少ないですから」

この帰郷は、待つ者のいる帰省ではない。
いつもなら城下町で家族のため、あれこれ土産を買いこんで詰めるところだが、今回は身軽に動けるよう自分の荷物しか入っていない。
金、着替え、当座の食料。手持ちの荷物はそれだけだ。
それ以外に持っていくのは、己の身一つと首に掛けたペンダントのみ。忘れようもない。
ルカはたいして荷の入っていないトランクを足元に立てると、高く音を立ててかかとを揃えた。

「――それでは」

名残惜しいが、ここまでだ。
別れの挨拶と、再会の約束を告げなければならない。
外套越しに手の平で貴石を覆うようにしながら、ルカは頭を深々と垂れる。

「今まで大変お世話になりました。これまで賜ったひとかたならぬご恩、全てを終えた暁には必ずお返ししに参ります」

言いきると同時に、はかったかのようにさらりとした風が吹き抜けていった。遠くの方で雲が動いたのか、ささやかな陽光が背後から伸び、幕開けのように街並みを照らしていく。
頭を上げればルカの青く細い影が、正対するフェデルタの頭までさしかかっていた。表情が少し隠れてしまっているものの、それでも師が眉間を盛大に寄せているのは判別できた。
言わんとすることを察し、思わずルカの口からは苦笑がもれてしまう。反対にフェデルタの口からは呻くような声で小言がこぼれた。

「……この期に及んでその堅苦しいまでの律儀さ、いったい誰に似たのだか」
「どなたでしょうね」

ルカが首をかしげると、フェデルタは腕を組み、いかにも悩ましいといった体で形ばかりのため息をついた。
最後だからと、らしくもなく調子にのってしまったが、咎められる様子はない。寄せた眉間を揉んだフェデルタは、ひたとした目線をこちらに寄越す。

「お前はなすべきことだけを考えていればいい。進む先は、もう選択したのだろう」
「――はい」

きっぱりと返事をすると、やや説教のような口調でフェデルタは付け足してくる。

「それに、今生の別れでもあるまいに。何かあったらいつでも戻って顔を出せ。……いや、何もなくても顔ぐらい見せに来い」

その言葉にルカは僅かに逡巡した後、小さく首を横に振った。

「顔を合わせれば甘えが出ます。これ以上、情けない姿をさらすのは本意ではありません。……次にお会いする時には、必ず良い報告を持って参ります。その時までは」

先の言葉は飲み込んだ。落ち着いた表情を取り戻したフェデルタの様子から、すでに覚悟が伝わったと悟ったからだ。
微かに寂しそうな、しかしそれでいてどこか満足そうに、フェデルタは一度だけゆっくりと、頷くような瞬きをした。

「であれば、是非もなし。……とうにつわものになっていたか」

まぶしそうに瞳を細める彼に、かっ、と胸中が熱くなりルカはつかの間、息を詰まらせる。

(あれだけご迷惑をおかけしたのに……なのに)

師が長らく抱き続けてきた遠い日の約束は、今、成就したという。餞別の言葉としてはあまりに大きく、重い言葉にルカの表情はくしゃりと崩れそうになった。
しかしすぐさま奥歯を噛みしめ、すんでのところで踏みとどまる。情けない姿は見せられないと言ったばかりじゃないかと己を叱咤し、下向きそうになった顔を無理やり上向けた。
背を正してなけなしの虚勢を張り付けた顔を見せると、意を汲んでくれたのかフェデルタは得心とくしんがいったように頷いた。
すると彼はそのまま、何故かやおら自身の外套の胸元を探り、「手をだせ」とルカに促してくる。
疑問符を浮かべつつ言われた通りすると、フェデルタは外套の合わせから何か手の平ほどの大きさのものを取り出し、ルカの手中に握らせた。
丸く重みのある硬質な感触が手袋越しに触れる。
フェデルタの手がどけられるとルカは一転して、あっと驚きの声を上げた。

「持っていけ」

何でもないことのように言ってくるフェデルタに狼狽しながら、ルカはかぶりを振った。

「これは、受け取れません……!」

ルカの手の平には一つの懐中時計が乗せられていた。真鍮製しんちゅうせいのそれはフェデルタが長らく愛用しているものであり、蓋の表面には直剣を咥えた獅子のレリーフが施されている。
その意匠は、フェデルタの赫々かっかくたる武勲や教育者としての功績を皇帝が直々に認め、下賜かししたものである証だ。
彼以外に何人たりともその身の証として使う事が許されていない、特別な象徴。そのようなものが彫られた時計、そう気軽に他者へ譲渡していい品ではないはずだ。
何故これを、とルカが問うより前に、フェデルタがやはり殊更ことさら大したことではないとでも言いたげな様子で続ける。

「帝都で一番の職人に作らせたという逸品だ。路銀が尽きた際には古物商にでも持ち込め。それなりの値がつくだろう」
「しかしこれは教官の、武人としての誉そのものではありませんか。易々と受け取る訳にはいきません。それに、これを下げ渡したことが皇帝陛下の耳に万にひとつでも入れば……」

不興を買うこと請け合いだ、と言葉を曖昧にしつつも示唆すれば、なおもフェデルタは落ち着いた口調で答えた。

「私にとって誉とは物にあらず」

彼はゆっくりと、神聖な文言を唱えるような声音で続ける。

出藍しゅつらんをもって誉とする。……いかなる者が見ても非の打ちどころがない功名を立て、凱旋しろ。であれば、仮に事が露顕したところで、さしもの陛下も文句は言うまい」

――少し上向いた先にある、鋼色の髪は朝方の空気を反映して青みをまとっていた。

「……!」

喉奥に力を込めなければ湿った呼気がもれそうだった。昂ぶる感情を抑えようとし、目元に力を入れたまま黙すルカを見下ろし、恩師は静かに微笑を返す。

「旅立つ者に少しでもおのが身を託しておきたい気持ちは、お前も知っているだろう」
「……はい」

感極まったルカにはもう、小さく応えるのが精いっぱいだった。
村での自身の動向、おそらくはジトレから聞き及んでいたのだろう。あるいは、整えもせず後ろ髪を短くして帰ってきた姿を見て、諸々を察したのかもしれない。
いずれにしても覚えのあるところをつかれ、それ以上ルカは辞することができなかった。
あの時の自分と同じだと言われれば、その思いを無下にするなど到底できはしない。ルカは受け取った懐中時計を両手に包み、うやうやしく頷くと懐にそっとしまいこんだ。

「それと、もうひとつ餞別だ」

言いながら、フェデルタはおもむろに腰に差す剣を鞘から引き抜いた。
すらりと抜き身になったを淡い陽光が、ついと上から下へと滑らかになぞっていく。
身構えなかったのは、その流れるような動作が敵対する者を薙ぎ払うものではなく、別の意味合いを持つものだと知っていたからだ。
厳かでありながら流麗な身ごなしは、ユノン教の祭式に則ったもの。祈りを奏上する際に行う礼法の一つだった。

「神官ではないゆえ形をなぞるだけだが、聞いていけ」

フェデルタが剣の切っ先を天に向けながら顔前に捧げ持つのを見て、ルカも呼応し低頭ていとうする姿勢をとった。

「……謹んで拝受します」

息がかかるほどの距離まで刃を近寄ちかよせる所作は、武人の魂たる武器にいのことばを乗せるためだ。抜いた剣を無言のままにおさめさせるのは無礼にあたる。
何より、大恩ある師が己の出立に際して祈願してくれるというのだ。断る理由など、どこにもない。
しかし拝聴のために腰を折ると、自分の意思とは関係なしに視界が潤んできてしまい、ルカは下唇を薄く噛んだ。

(必ず、帰ってくる)

それまでは一滴だって流すものかと。断固とした意志と共に瞼を下ろすと、ほどなくしてフェデルタが粛々と一揖いちゆうする気配がした。

「我が忠実忠実まめまめし剣のもとに奏上す」

その音吐朗々おんとろうろうとした声はいつかの悪夢の中で聞いた、けざやかなものだった。

「紺碧たたえる旅人の、その言挙ことあげし求むる道がいついつまでも、波瀾はらんなく弥終いやはてにはさき真幸まさきく実を結ぶよう。今ここに万丈ばんじょう気焔きえんをもって、東雲しののめたてまつる」

探求する道が平穏無事に続き、ついには成就するようにと。深閑しんかんとした空に響いた祈りをルカは噛み締めた。
しかと受け取った事を示すように、ルカがひときわ深く頭を下げると、合わせるようにして衣擦れの音がする。
再び一揖することでフェデルタが奏上の場を締めくくった事を察し、ルカは静かに頭を上げた。

「奏上の栄に浴し恐悦至極に存じます……――ありがとうございました」

祭式に則った返答をした後、ありのままの感謝を口にすると、納刀したフェデルタが口を開いた。

「もう行くのか」

凛呼りんことした佇まいでこちらを見下ろす師には、感傷的な色はない。しかし、そう見えるよう装ってくれているのだと、ルカには難なく察することができた。
これからの行程を考えればこれ以上、言葉を交わすことはできない。……時間切れなのだ。
だからこそフェデルタは、あえて感情の発露を伏せ出立を促しているのだろう。しかしその機微は、「もう」という惜しむような言に僅かながら表れているような気がした。

(だったら――)
「はい」

一瞬の逡巡もなく、ルカは引き締めた声と共に頷いた。

(これ以上の言葉は、もう必要ない)

そっと手を心臓の上――ペンダントと懐中時計のある場所――に添わせた後、剽悍ひょうかんに踵を合わせる。
串を通したかのように背をぴんと正すと、敢然かんぜんとした覚悟と共にフェデルタを見上げた。

「――行ってまいります」

師は短く、しかし力を込めた声音で応えた。

「息災であれ」

はなむけの言葉を張りのある敬礼で受け取り、トランクを持ち上げたルカはきびすを返す。
声がかかることはもう、なかった。
歩き出し、一歩、また一歩と進んでいくにつれ背後からは気配が遠のいていき、石畳の上を行く自身の足音だけが規則的に響く。
もの寂しい感覚はあるものの、後ろを振り返るつもりはない。
道は開けている。ならあとは、前に向かっていくだけだと、ルカはたぎる士気を胸におとがいを上げた。
見上げた先には、僅かばかりの瞬きが朧げに光る暁の空。淡く白む色は紫紺。
その東の空はまるで、明け残る晨星しんせいが日に焼かれぬようにと、守り抱いているようにも見えた。




「行っちゃいましたね~」

塀の陰からひょっこりと姿を現したジトレは、後ろ頭で腕を組みながら歌うように言った。

「いたのか」

動じた様子もなく遠くを見たまま応えるフェデルタに、ジトレは肩を竦めて両手の平を見せる素振りをする。

「またまた~、どうせ俺が隠れてるのなんて教官は分かっておいでだったでしょう?」
「どうだかな」
「とぼけちゃって」

まぁ、あいつは気づいてなかったようですけどね、とジトレは足元を軽く蹴って見せた。
彼はフェデルタと並んで同じ方角を眺め、手でひさしを作って首を伸ばす。

「しっかし、あ~んな大事なものをあげちゃって良かったんですか?皇帝陛下から頂いた物でしょう?依怙贔屓えこひいきなんだ~」
「あれはもう退校した身。私の教え子ではない。私生活での贈り物、何をはばかることがある」

平然と言いのけるフェデルタに、ジトレは数秒だけきょとんとすると、嫌味なくからからと笑った。

「声をかけなくて良かったのか」

腹を抱えるジトレに視線を落とし、フェデルタが問いかける。
息を整えたジトレは肯定も否定もせず、既に遠く小さくなった友人をただ見つめていた。

「あいつ出発日を俺に言ってこなかったんですよ、薄情だと思いませんか?まぁ、湿っぽくなるから見送りにくるなってことなんでしょうけど〜。ご丁寧に置手紙までありましたし」
「なるほど。相手の意思を尊重とは、良い心がけだ」

顎をさすりながら言うフェデルタに、ジトレはとぼけるように首をかしげる。

「そういう訳ではないですよ〜。俺が来たのはついさっきですから。声をかける時間がなかっただけです」
「時間があれば、また違ったと?」

重ね掛けに質問するフェデルタにジトレはうんうんと首を縦に振った。

「今朝はたまたま眠りが深かったので。いや~出遅れちゃったな」

ふわ~ぁっと大げさに口を開け閉めするジトレに、フェデルタは見定めるような視線を流した。

「いついかなる時でも物音に敏感で、入眠していても他人の衣擦れの音で目覚めるほどのお前がか」
「いやはや、珍しいこともあるもんで」

素直じゃない教え子に、人知れずフェデルタは苦笑した。
ついさっき来て時間がなかったと言いつつ、懐中時計の受け渡しは見ていたとも言う。一声かける隙ぐらいあっただろうにとフェデルタは考えるも、口にはしなかった。

「ほう……」

代わりに感慨深く息をついた師のまなざしに、そこはかとない温かみを見出してか、ジトレは少したじろぎながら口を割った。

「あ、な~んか的外れなこと考えてません?別に二人のことをおもんぱかったりなんかしてませんよ?」
「私は言葉のままに受け取ったが」
「そんなぬくい目で見ておいて何をいけしゃあしゃあと」

旗色がわるいと見るや、にわかに喧しくなったジトレを、フェデルタは落ち着き払った態度でいなす。

「その察知能力にブレがあるのなら、村での調査に救助者捜索の任で推挙したのは早計だったか。学績も改める必要がある」
「あ~~~っと、この時間、帝都でもかわたれどりが鳴くんですね~!」

都合のわるい声をかき消さんとジトレは殊更ことさら、明るい声を上げながら上空を指さした。

かわたれ鳥・・・・・……?夜明よあどりではなくてか」

ぴゅーい、と独特な節をつけた鳴き声が行き交い始めた空を見上げ、フェデルタは疑問を呈す。
狼狽が尾を引いてか、ジトレはどこか決まりがわるそうに後ろ頭を掻いて付け足した。

「あぁ……、こっちではそう言うんでしたっけ。俺が住んでた地域では、かわたれ鳥って呼ばれてるんです」

今度は東の方角へ腕を向け、ジトレは続ける。「あの鳥は、かわたれ星と一緒に空にいるので」と、新たに明けの明星を指し示した。

「物事の始まりを象徴する鳥だと言われているんです」

よく縁起物に使われたりしますねと、続く説明の合間にも、陽光に向かって悠々と羽ばたく鳥の声は合唱のように幾重にも重なっていく。

「であれば、あれは吉兆か」

朗々と歌い上げる声があたかも言祝ことほぎのように聞こえ、フェデルタは目元を緩めた。
旅立ったばかりの教え子にも、同じように響いていればいいと願いながら。

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