戦の神とエテルマリアの少女

第7章 フェリカの想いとローレンスの決意

Work by ネオかぼちゃ

祭りの期間、この年も街を散歩するフェリカとローレンスの姿があった。
5年で二人ともすっかり大人に成長しており、フェリカはすらりとした理知的な女性に。ローレンスはかなり背が伸び逞しくなっていた。酒は無事買えた。
この日二人は祭りの開催区画から外れた街を散策していた。

「ほらフェル、見た事ない花があるぞ。」「あそこのやつ、グラジオラスだな?」「・・・・スミレか?この白いのは。」

フェリカとの散策中、ローレンスも街中の花に注目するようになり、今やこうして植物の名前を言い当てる事ができる。フェリカの教育の賜物である。
また、二人街の散策を通して顔馴染みの住人も何人かできた。

「今年も来たんかい?新商品作ったからお昼ご飯に買っていきな。」
「こんにちは、また一緒にいるのかい?こりゃドナートさんも安心だな!」

今日も街は一部を除き、いつもの穏やかな日常を過ごしていた。

「あ!ローレンスにいちゃん!また剣教えて!」

公園でローレンスを知る子どもたちが集まってくる。

「なんだお前ら、戦士になりたいのか?」
「そうだよ!大人になったら軍人になってこの国を守るんだ!ローレンスにいちゃんも入りなよ!」
「僕はケーサツになって悪いやつ捕まえる!」
「うい!」

子ども達に訓練をせがまれ、(悪い、どうしようフェル・・・)というローレンスの視線に、自分は本を読んでいるから大丈夫、と合図を送る。

ローレンスは小さい子どもの扱いが上手い。
子どもに対して好意的で、遊び方を知っているし体力もある。泥だらけになる事も気にしない。背の高い彼に対する「巨人!巨人!」などと言う言葉も気にしていないようだ。
一方自分はどう接して良いか分からないし、子ども達の予測不能な動きにも無尽蔵の体力にもついていけないから苦手だ。
日陰のベンチに座りしばらく彼らの様子を眺める。
木の棒を振ったり駆け回ったりと微笑ましい光景だ。

子ども達にターゲットにされる前に静かに本を開き、気配を消す。
そうしてしばらくするとローレンスが戻ってきた。

「フェル、またあいつらにせがまれる前に行くぞ!」

そう言ってフェリカの手を引いて歩き出す。それでも横顔は少し楽しそうだった。

「なんだかローレンス、すっかりここの住人みたいだね。」

その言葉にローレンスは「う~ん・・・。」と少し困った顔を見せた。


◆◇◆


7日目のパレードが終わり、祭りの熱が残る月の夜。
いつもの神殿の前、暖かな街灯の光が照らす街を眺めながら談笑する。

「それでね、将来はお父さんの研究を手伝いたいって思ってるの。」
「いいじゃねぇか!お前なら何でもできるさ。」
「あと、カーラおばさんからフルーツタルトの作り方を教わったから、今度作ってあげるね。」
「前にフェルが作ったクッキーも最高だったけどな。」

微笑みを交わし、また街の方に視線を戻す。

「・・・そろそろ帰らないとな。」

今まで通り、家に送ろうと踵を返すローレンスの袖を引く。

「・・・来年も来てくれる?」
「それなんだが・・・。」

ローレンスがそう言いフェリカの方を見やる。
普段表情の乏しい彼女だが、目に映った彼女はいつになく真剣にローレンスの方を見つめていた。

「私、もっと一緒にいたい。」

いつもより力の籠もった口調で、少し震える声でフェリカは続ける。

「私、あなたの事が好き。だからずっと一緒にいて欲しいの。」

そう言い手のひらに乗せた指輪を差し出す。あの時二人を繋いだ形見の指輪だ。

「あなたの100年を私にください。」

ありったけの勇気と照れと、そして不安。それらを綯い交ぜにしたフェリカの告白。
周りの音が消え、早鐘を打つ鼓動だけがやけにはっきり聞こえる気がした。

「・・・は?」

ローレンスは驚いて硬直した後、険しい顔で返答を返す。

「・・・それはできない。俺はここにいるべきじゃない。来年からは来ない。それを伝えようと思ってたんだ。」

思いもよらないその言葉に、フェリカの表情が青ざめていく。

「来年も、再来年も来てくれるって言った・・・。」
「悪い・・・。」

フェリカの目を見れず、ローレンスは顔を背ける。

「・・・やっぱり戦場に戻りたいの?」
「・・・・・ああ、そうだ。戦場は俺の居場所だ。戦いは俺の全てだ。お前に話しただろ。」
「戦うのが好きなら、この国にも軍はあるからそこに入れば良いよ。イクスだって気にされないよきっと。」
「はっきり言うぞ。暴力が欲しい、血が欲しい、命のやり取りが楽しい。人を殺すのが好きな、そんな俺がここで真っ当に生きられるわけないだろ!」

嗚呼、この5年間、この街で穏やかに過ごす彼を見て、戦場以外で生きる道を知ってくれたと思っていた。
しかし、それはやはりただの幻想で、彼はやはり真性の兵器なのだろうか。
いいやまだ引き下がらない。まだ引き下がれない。彼に手を伸ばさなければ!

「ローレンス、私はこれ以上あなたに怪物になって欲しくない。これが私が手を伸ばしてあなたを引き止められる精一杯の方法なの。」

ずっと血の道を歩み続ける彼に自分に何ができるか考えていた。
嫌というほど分かっている。彼を救いたいのは、人の道に留めたいのは自分のエゴだって。

「二人一緒ならきっと大丈夫だよ。私がもっと勉強してなんとかする。だからどうか、この手を取って。」

フェリカの必死の訴えにローレンスは明らかに動揺している。初めて見せる表情だ。

「なぁ、お前は俺が怖くないのか?お前は俺を愛せるのか?」
「ローレンスだから怖くない。私はあなたを愛してる。」
「~~~~~~!」

ローレンスは片手で自分の顔を覆う。色白だから顔が赤くなってるのは一目で分かる。
やがて息を一つつくとローレンスは決意に満ちた表情でフェリカの目を見つめ返し、差し出されたその手を優しく包み込むように自分の手を重ねた。

「・・・分かった。なんとかする。」
「なんとかって?」
「お前と一緒にいられるように、俺が絶対なんとかする。だからもう1年待ってくれ。その時はずっと一緒だから。」

断られる可能性が高かったから、失恋の痛みに備えていた。なんならもう気持ちさえ伝えられれば良いと思っていた。それでも、想いが実った時の嬉しさは天にも舞い上がるほどだった。こんなに嬉しいことはない。

「・・・本当に?本当の本当に?」

想いを打ち明けた時よりも赤い顔で、何度も尋ねる。

「ああ、約束する。」

ローレンスはフェリカと視線を合わせ、そっと熱い頬に手をかざす。

「フェル、俺もお前を愛している。」

瞼への口づけ。それは最上級の愛の証。
ローレンスに抱きしめられて、初めて彼の匂いを知った。
鉄の匂いと、幼いあの日神殿で嗅いだことのある懐かしい香りだった。
静かな波音が包む街は、寄り添う二人の影を温かく照らしていた。

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