戦の神とエテルマリアの少女
Work by ネオかぼちゃ
そうしてついに祭りの最終日が来た。
今日で案内の役目を果たし、ローレンスとはお別れとなる。
「今日は特に人が多いな。」
「そうだね。最終日の今日は、このお祭りで一番の催し物があるから。」
祭りの最終日はテーマに沿って作られた豪華な山車が街を練り歩き、海辺の広場を目指す大々的なパレードだ。
1番の目玉であり見物客が最も多いため、7日間で最も街が賑やかになる日である。
「パレードはあそこを通るから、時間より早めに戻ってくれば見れると思う。早いうちにご飯とかお土産買っておいた方が良いってお父さんは言ってた。」
「お前はいつも見に来てないのか?」
「うん・・・最後に見たのいつだったかな・・・。」
そうだ、小さい頃に両親と来たのを覚えている。確か母が亡くなってからは見に来ていない。なにせローレンスと一緒に回るまで祭り自体にあまり興味がなかったのだ。
人が多くどこの店も混んでおり、昼食のサンドイッチだけでも並んで購入まで辿りつくのに時間がかかってしまった。
遠くで数度花火の音が響く。
この祭りの1番のメインであるパレードが始まったようだ。愉快な音楽と共に人々の歓声が街を染める。
パレードは大きな人形を乗せ、花で鮮やかに飾られた山車が踊り手達と共に街を練り歩くのだが、すでに大通りの道には人の垣根ができており前に進むことができない。
「人が沢山いて近づけないね。」
「問題ない。あの道が見えれば良いんだろ?」
「え?・・・わっ!」
ローレンスはフェリカを抱えるとあっという間に建物の屋根に飛び乗った。流石イクスの膂力だ。
「ほらな、ここからならよく見える。」
ローレンスの言う通り、眼下では人混みとパレードの全体が良く見えた。
「怒られないかな・・・。でも、上から見るなんて初めて。」
オレンジ色の屋根の上、向こうに見える青い海。
日常とはかけ離れた特別感に戸惑い心を弾ませながら、二人並んで腰を下ろす。
眼下で花吹雪がキラキラと舞い、派手な衣装を着た人々が舞い、大きな音楽と共に山車の列がやって来た。
山車や踊りは毎年決められたテーマに沿って作られている。今年のテーマは「秘密の物語」だそうだ。
「すごい・・・、まるで絵本の世界を作っちゃったみたい。」
分かりやすくテーマを読み取れる山車から、自分の想像よりも遥かに創造的な山車まで、各々の見せ方で同じテーマを表現している。色とりどりの花で幻想的に飾られた山車の上からはスタッフが道の人だかりへ向けて花を投げかけている。
本当に何もかもがキラキラしていて、空想の世界にいるようだ。
やがてパレードの列が過ぎ、目的地まで辿り着いた頃には辺りは夕暮れに染まっていた。
「すごかったね。」
「ああ、今まで見た中で一番派手かもな。」
しばらくして日が沈み、空が紫色に差し掛かる頃、祭りの最後を締めくくる大輪の華が空に咲き始めた。
歓声とともに大きな音が町中に響き渡る。
その音がふわふわしていたフェリカを現実へと引き戻した。
そして目の前に広がる光の色彩にまたフェリカは釘づけになった。
それはあまりにも綺麗で、力強くて、古い記憶に焼き付いていたからだ。
ああそうだ、小さい頃に両親と観た、母の病状が悪化してから観にいくことはなかったあの花火だ。
「今まで私のせいでお家の中ばっかりに居させちゃってごめんね・・・。」
遠くに聞こえる花火の音に、母は申し訳なさそうにそう言った。
病弱だった母はなかなか外出する事が出来ず、フェリカが外で遊んでいるのを見守る事が難しかったため、せめて目の届く範囲でと家の中で一緒に過ごす事が多かった。
それでも自分に色々と教えてくれたし、お菓子を作ってくれたり、本を読み聞かせてくれていた。
「そんな事ないよお母さん。お母さんが一緒にいるから大丈夫だよ。」
自分は家の中だけでも良かった。ここには大好きな家族がいたのだから。
「フェル、もし私が居なくなったら、お家から飛び出して新しい人達や色々な事と出会って欲しいわ。そしてあなたとあなたの愛する人を大切にしてね。大丈夫。私の姿はあなたには見えなくても、私はちゃんとフェルを見てるから。」
それはいつかの母の言葉、母の願い。どうして忘れていたのだろう。
「また辛いのか?」
「ううん、今はすごく胸が熱いの。」
自分にはまだ母から託された願いがある。母に会う時にはそれを叶えた自分になっていたい。
花火もいよいよクライマックスに向けて盛り上がっていく。
「綺麗・・・!すごい・・・!」
「そうだな。こいつはなかなか壮観だ。」
いくつもの色彩を咲かせた後、最後の花火が打ち上がり街は人々の喝采に包まれた。
こうして祭りの最終日は終わりを迎えた。
心臓を打つ光の花々は夜空に消え、余韻の煙だけを残す空の下、人々が帰路につき始める。
「やっぱ間近でみる花火は最高だな!」
屋根から降り、フェリカを家に送り届ける道中ローレンスは満足そうに笑う。
「フェリカ、お前も。良かっただろ?」
「・・・うん、・・・うん!」
感動と興奮と、お別れが近い焦りで思考が追いつかないままそれでも言葉を振り絞る。
「花火、すごく綺麗だった!本当に本当に、綺麗だった!」
そんな風に、二人街灯で照らされた夜道を祭りの感想を語り合いながら歩いていると、あっという間に家の前にたどり着いてしまった。
非日常は日常へ戻っていく。目の前の彼も元の場所へ帰ってしまう。
(ああ、魔法が解けちゃう・・・。)
この6日間は長いようで終わってみるとあっという間で、まるで夢の中の小さな冒険のようで、何もかも新鮮だった。
煌びやかな屋台、音楽、パレード達は遠くへ去って行き、現実に目を覚す。そんな感覚だった。
「・・・ねぇ、来年も来る?」
縋るように尋ねる。
「どうだろうな。考えてなかったわ。」
「また・・・会おうよ。来年も。できたら、また一緒にお祭りを見ようよ。」
勇気を出して誘ってみる。そう、勇気。友だち作りに必要なもの。自分がずっと出せなかったもの。
「もっと勉強して、来年はもっと上手に案内するから・・・どう?」
ローレンスは少し考える仕草をする。
「ん~、まぁ別にいいぞ。来年も一緒に回るか。」
「ほ、本当に?いいの?」
「ああ。俺の都合がつけばだけどな。」
やった!
安心と嬉しさが押し寄せてくる。真っ赤な顔をパタパタと仰いで必死に静め、深呼吸する。
「じゃ、じゃあ、改めてよろしくね。ローレンス。」
「ああ、よろしくな。フェリカ。」
家の門の前、ついにお別れの時間だ。だがフェリカの恐れていたお別れではない。
「ありがとうね。また来年。」
「ああ。じゃあ、またな。」
気をつけて。そう言うフェリカにローレンスは笑って軽く手を振り、夜の闇に消えていった。
友だちができた。友だち、でいいのか?何はともあれ初めて人との繋がりを作れた。
フェリカは嬉しさのあまり思わずニヤける顔に手を当てる。
火照る頬を夜風で冷まし、家のドアを開けた。
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