戦の神とエテルマリアの少女
Work by ネオかぼちゃ
翌日、神殿の前。不安に曇り続けるフェリカの心情とは裏腹に空は晴れ渡り、澄み切った青色が広がっている。
「・・・・・。」
フェリカの隣には父ドナートがいる。
それも当然だ。昨日の夜、友だちもいない一人娘が突然「明日からお祭りで人を案内することになった。」などと言うものだから心配でついてきたのだ。
変に気まずい・・・。
そんな二人の前にローレンスがやってくる。
「よお、待たせたn・・・。」
ローレンスが挨拶する間もなくドナートはローレンスの前に立つ。
「誰だ?」
「君がローレンス君だね。フェリカから聞いているよ。危ない人達から助けてくれたんだってね。改めて礼を言う。ありがとう。」
ローレンスが何か答える前に、「ところでイクスと聞いているが年齢は?」「所属は?」「ドッグタグはある?」「保護者は?」「今はどこに宿泊している?」と、まるで尋問のようなやりとりをした後、ドナートはローレンスに向けて手で何か動作してみせた。
理解できずにキョトンとしているフェリカとは対照的に、ローレンスはすぐ同じように手で合図を返した。
「通じた!全部答えられたし、どうやら本物のようだね。」
パッと笑顔を見せ何度も頷くドナートにフェリカは尋ねる。
「今のは?」
「軍で使用される手信号だよ。一般人が知ってるものじゃない。」
そんなものをなぜドナートが知っているのか、フェリカに続いてローレンスも尋ねる。
「あんたは軍人か?」
「い~やぁ~?本で読んだことがあるだけだよ。ちょっと試してみたかったのさ。」
誤魔化すようにそう言い、フェリカと同じ緑髪の頭を掻きながらイタズラっぽく笑う。
「試すようなことをしてすまなかった。僕はドナート。この子の父親だよ。」
ローレンスに向き直り、ドナートは右手を差し出す。
「ローレンスだ。」
ローレンスもそれに応じ握手を返す。
「しかし、その若さで傭兵か・・・。いや、気を悪くしたならすまない。仕事柄、人に倫理や道徳を説く立場でね。」
「いや、気にしない。」
「・・・さぁ、せっかくの祭りなのに長話もこの辺にして、二人とも祭りを楽しんでおいで!・・・くれぐれも遅くならないように。危ないところには行かないように、ね。何なら僕も付いて行こうか?」
「いいよパパ。今日用事あるんでしょ。」
「うん。もうすぐ行かなきゃ。・・・ローレンス君も、フェリカをよろしく頼む・・・。気をつけて・・・。」
先ほどの言葉とは反対に名残惜しそうな顔で手を振る父を背に二人は街へと歩き出す。
「お前の親父、ちょっと俺の親っぽいやつに似てた。雰囲気が。」
賑わっている方へ歩いている途中でローレンスが呟く。
「どんな人?」
「白い髪の医者で、俺を育てたり治したりしてくれた。」
「良い人だね。」
「怒るとやベぇ薬刺してくるけどな。」
「えぇ・・・、大丈夫なの・・・。」
フェリカは怪しい研究者のような白髪の老人の姿を思い浮かべたのだった。
◆◇◆
豊穣祭。
それは1年の収穫を祝い、神に感謝する7日間のお祭り。
1年で最も大規模なこの祭りは一箇所でなく、日によって開催地域が移動する。地図と日程表は必需品だ。
また、エテルマリアではこの期間は死者や神霊が地上を訪れると言われており、彼らを盛大に歓迎する7日間でもある。
エテルマリアの豊穣祭を楽しもうと国内外、特に長年友好関係にある隣国から訪れる観光客はとても多い。
「えっと、今日は、あっちの地域でイベントがあるみたい。」
フェリカは早速地図を手に近くの街路を歩いてみる。
街路には色とりどりの花が咲き、建物の壁に反射した陽光が街を明るく照らしている。
遠くに聞こえていた人の声、音楽。騒がしさが近づくにつれて道を行き交う人が増えていく。
少し開けた場所では仮面をつけ派手な格好をしている人を頻繁に見かけた。
「あれは?」
「あれは精霊の仮装らしいよ。あとは昔の伝統的な格好の人もいるね。」
素肌を隠し、人外じみたその衣装は鮮やかな羽飾りやツノ、フリルで飾られ、刺繍が光を受けてキラキラとしている。仮面の下の表情は窺い知れない。普通の人々に混じるその様子は異世界に迷い込んだようでワクワクする。
「面白そうだな。俺も仮装してみたい。」
「衣装の貸し出しはあると思うけど、人が多いから難しいかも・・・。仮面だけなら売ってると思う。」
陽気な音楽の中、観光客に溢れた通りは食べ物や工芸品など多くの屋台が立ち並び、様々な匂いが鼻を刺激する。
人の数に圧倒されながらも、フェリカは歩みを進めようとする。
が、このままでは二人、人混みに引き離されてしまい案内どころではない。そう思った瞬間フェリカの手をローレンスが掴み引き寄せた。
「どっちに向かえばいい?」
「と、とりあえずそっちのお店見てみようよ。」
「分かった。」
フェリカの手を引き、人波を物ともせずローレンスは進んでいく。
かっこいい男の子に手を引かれるなんて、まるで絵本のワンシーンのようでドキドキした。
明るい場所で改めて気づいた。水色に紫の混じったローレンスの瞳はとても綺麗で、忘れもしない幼い頃に見たあの男性と同じ瞳だった。
二人は早速屋台で売られているお土産を見て回る。木製や陶器製の工芸品、ガラス、織物など様々な物が陳列されている。フェリカが言っていた通り、仮面の店はあちこちにあった。
こんな屋台があるんだ。こんな物が売っているんだ。まるで宝石箱やおもちゃ箱のようだ。
案内を忘れそうになるほど、フェリカの視界に目まぐるしい世界が映る。
「あれは何だ?」「フェリカ、これは?」
ローレンスを見やると、彼もフェリカと同じようにあれこれに興味を示している。それが逆にちょっと安心した。
「えっとこれはこの国の工芸品で・・・、これはピンクアイボリーでできてるのかな?こっちはトネリコ?」
普段なら買わないものも、こういう場所では無性に欲しくなってくるのはなぜだろう。
その後何度店の前で立ち止まったか分からない。
二人でひとしきり売り物を見、屋台で食べ物を買い、街を巡っていると、初日はそれだけであっという間に時間が過ぎてしまった。
「いやあ楽しかったな!」
「うん。よかった・・・でもごめんね、私の案内のせいで・・・。」
無邪気に笑うローレンスとは対照的に、フェリカは自分の無力さに打ちひしがれていた。
「まぁ結果としてあちこち見れたしな。また明日もよろしくな。」
「うん・・・。」
途中道を間違えたり、遠回りをしたり、場所が分からなかったりとハプニングもあり、案内というよりも1日中適当に歩き回っていただけだ。足は結構疲れたけど、いつもとは全く違う世界に来たようでとても楽しかった。可愛いお土産も買えた。
ローレンスの言葉に気を持ち直し、買ったお土産にほくほくしていると、彼が思い出したかのように店を示す。
「そうだ、最後にまたあの店見ていいか?」
「欲しいもの、あったの?」
そうしてローレンスが屋台の一つに陳列された商品を指差す。
「おっさん、この木刀くれ。」
「あぁ、君たち見たところ未成年だろ。保護者が一緒に居ないと売れないんだわ。」
「・・・・・・。」
何も買えず店を出ると、ローレンスはポツリと呟いた。
「フェリカ。お前の親父についてきてもらえばよかったな。」
◆◇◆
祭りの3日目、昨日はとにかく祭りの情報量に圧倒されたまま一日が終わったが、今日は屋台以外の祭りの催し物にも意識を向けられそうな余裕が出てきた。
祭りの開催区画に向かって歩き出す。空は今日も晴れていた。
仮想の列に子どものパレード、街の美女を決めるコンテスト。
立ち並ぶ屋台に人の群れ、まかないのシチューの香り、花びらのように舞う紙吹雪。
音楽に合わせて手を取り合い踊る人々のように、くるくると楽しくもめまぐるしい祭りの様相。
しばらく街を探索していたが、余裕綽々なローレンスとは裏腹にフェリカは疲労の色を滲ませる。
普段本を読んでいてほとんど運動などしないため、連日の疲れが重なり歩く事がとても辛いのだ。それに、人混みに慣れていないのもあって少し酔っていた。
「脚が痛い・・・。」
「なら、そこで休憩するか。」
近くの広場では演奏が行われ、それに合わせて人々が楽しそうに踊っていた。
柱の根本に二人で腰を掛け、休憩がてらその様子を眺める。
フェリカが息を整え、脚を休めている隣でローレンスは楽しそうに音楽に合わせて体を揺らしている。
「ローレンスは音楽が好きなの?」
「嫌いなやついるのか?俺は歌も音楽も踊るのも好きだぞ。お前は何が好きなんだ?」
「私は、本が好き。本を読むのが好き。・・・でも歌も好きだよ。」
「本ねぇ、じっと文字眺めてて楽しいのか?」
フェリカのその回答にローレンスはあまり興味なさそうだ。
「楽しいよ。色んな事知れるし、面白いお話だと続きが気になって夜更かししちゃう。」
ローレンスの否定的な反応に、フェリカは抗議の意を示す。
決してローレンスを責める気持ちでなく、寧ろ本の面白さを知って欲しい気持ちで。
「書いた人の人生とか、考え方を知るのも楽しいし、景色とか光景を想像するの楽しいの。でも一番好きなのは植物図鑑。世界中の面白い木や花が描いてあって、植生とか育て方とかが書いてあるの。それで・・・。」
「分かった分かった。お前は本が好きなんだな。」
フェリカの圧にローレンスは続きを遮る。
まだ魅力を伝え切れてないがローレンスが嫌がっていると気づき、フェリカは少し落ち込んだ。
「・・・ごめんなさい・・・。本って面白いって知って欲しくて・・・。」
「あ~・・・、気が向いたらな。うん。」
それから二人、また広場の踊りを眺める。
「・・・私はここで休んでるから行ってきてもいいよ。」
踊りをただ眺めるだけになってしまっているローレンスを見て、せっかく海外から来た彼をここで休憩に付き合わせてしまうのも申し訳なかった。
「お前は来ないのか?」
「まだ脚が痛いから、休んでる。」
「ん。じゃあここで待ってろよ。ちょっと行ってくる。」
そう言いローレンスは踊りの輪に入っていく。
踊るの上手だな。楽しそうだな。でもよく知らない人の輪に入っていけるな・・・。
そう思いながら独り、楽しそうなローレンスを眺めていると、不意に近づいて聞いた女性に1輪の花を渡された。
驚いて声も出せず、会釈をして受け取り女性を見ると花束を抱えてニコニコしている。
「1,000ブルムよ。」
「!?」
「あなたそれを受け取ったでしょ。なら1,000ブルム支払いなさい。じゃないと警察に連れていくわよ。」
「私は買うつもりじゃ・・・。」
花を返そうとしても相手は受け取ろうとしない。
「いらなかったのなら受け取らなければ良かったじゃない。欲しいから受け取ったんでしょ?」
怒ったような顔、責めるような口調で一向に引き下がらない。動揺で鼓動が早くなり頭が真っ白になる。怖い。
泣きそうになりながら、相手にお金を渡すしかないとポケットの財布に手を伸ばす。
「おい、何してる。」
ローレンスの声がした。
「花のお代を貰おうとしてたのよ。」
ケロッとにこやかな態度に変えた女性の言葉にローレンスはフェリカを見る。フェリカは怯えた顔で小さく首を振る。
「ちが・・・そんなつもりなくて・・・。」
「違うって言ってるぞ。」
「買ったわ。だってほら、手に持ってるじゃない。だからお金を払うべきよ。」
「急に渡されて・・・。」
ローレンスはフェリカから花を受け取ると女性に突き返す。
「いらないからこれを持ってどっかに行け。」
「私の生活費がかかってるの!ね?人助けだと思って…。」
「いらないって言ってんだろ!失せろ!」
引き下がらない女性にローレンスは怒りを露わにし、持っていた花を投げつける。
「私の商品に傷をつけたわ!警察に訴えてやるから!」
捨て台詞を吐きながら去っていく女性を無視し、ローレンスは不機嫌そうにフェリカを咎める。
「まったく、お前はすぐトラブルに巻き込まれるんだな!買おうとしたんじゃないんだろ?なんで払おうとするんだ!」
「だって・・・怖かったの・・・・。話が通じなくて、いなくなってくれなくて・・・・、他にどうしていいか分からなくて・・・。」
震える声でぽつりぽつりと伝え、ポロポロと涙をこぼす。
「捕まっちゃったらどうしよう・・・。」
泣き出してしまったフェリカに少し動揺したローレンスは優しい口調で諭す。
「分かった分かった。お前は悪くないんだし、俺がどうにか(物理)するから大丈夫だ。だから泣くな。」
そんな二人の耳に次の音楽が流れてきた。今の心境に不釣り合いな明るくて陽気な音楽だ。
「ほら、この曲知ってるか?」
「・・・うん・・・。有名なやつ・・・。」
フェリカをあやすようにローレンスが話題を振る。耳をすませば誰かの歌声が聞こえる。
「~~♪」
同じようにローレンスも歌を口ずさむ。
「歌、上手いね。」
「お前も歌好きなんだろ?なら歌おうぜ。これなら座ったままでも楽しめるんじゃないか?」
「ちょっと恥ずかしいかも・・・。」
「他も歌ってるからいいだろ。」
「・・・~♪」
フェリカもそっと歌を口づさむ。小さな声だが、澄んだ歌声だ。
「上手いじゃんか。」
少しずつ落ち着き、元気が戻ってきたフェリカにローレンスは笑いかける。
「それに、お前は俺の案内役なんだ。俺の側にいる限りちゃんと守ってやるから安心しな。」
その一言にフェリカの鼓動が大きく弾む。今、ちょっと音程がズレたかもしれない。
染まった頬を見せないように俯き、歌を続ける。
「~~♪」
二人仲良く歌を歌っていた時、二人の歌を遮るように女の声がした。
「あいつだよ!あんた達ちょっとお願いよ!」
驚いて声の方を見やると先ほどの女が数人の男を連れてこちらにやってくる。
楽しいひと時を邪魔され静かな怒気を放つローレンスに気づかず、彼らは二人を囲むように立つ。
「お兄ちゃん達ちょっと良いかな。うちの女がお前に乱暴されたって言ってるんだが。」
「ここじゃ人目もあるし、ちょっと向こうで話そうじゃねぇか。」
そう言い、座ったままのローレンスの肩に手を掛ける。
「おい!こいつあん時のイクスのガキじゃねぇか!?」
一人がそう言った直後、ローレンスが触れたの男の胸ぐらを掴みあげる。
「!?」
相手が状況を理解する間もなく次の行動を起こそうとしているローレンスをフェリカは急いで止める。
「やめて!!ローレンス!」
フェリカの声にローレンスはピタリと止まり、掴んでいた男を乱暴に突き飛ばす。
「さっさと失せろ。」
「おい!お前達何をしている!」
ざわつく人混みを掻き分けて警官が何人かが駆けつけ、男達とローレンスは取り押さえられる事となった。
女が「あいつが悪いのよ!」「私の商品を台無しにした!」とキンキン叫んでる中、フェリカもオロオロしながら警察に事情を説明する。
やがて周囲の人達の証言もあり、フェリカとローレンスはすぐに解放してもらうことができた。
女や男達はぼったくり商売や暴力沙汰で度々問題を起こしている集団だったらしく、そのまま警察にお世話になるようだった。
「なんで止めたんだ。」
広場から立ち去る途中、ローレンスはフェリカに尋ねた。
「だって・・・あそこで殴ったら、ローレンスが悪いことにされちゃうと思ったから・・・。」
「俺が悪い事になるのは構わない。だが、あのままだと俺達は金を払わされてたか、殴られてたかもしれないのにか?」
「そうならない為に話し合いとか・・・・。すぐに暴力は良くないよ・・・。」
その言葉だけでは納得しないローレンスは、怒りこそしていないがフェリカに問いを投げかける。
「話し合いねぇ。何か策があったのか?」
「・・・ううん・・・。今回は、何もできなかった・・・。」
フェリカは申し訳なさそうに首を振る。
「・・・非暴力を貫くなんて、そういう術や力がある奴がやることだ。今回お前にその力が無かったから俺が戦う必要があった。そうだろ?」
ローレンスの言っている事は分かる。動揺するばかりだった自分にはあの状況を解決する術はなかった。でも・・・。
「あ、あの状況で何もできなかった私はお金を払うしかなかった。それが不当でも。そ、そうすれば喧嘩をしなくても解決したよ・・・。」
「ふーん、・・・なら俺の助けは余計だったか。」
少し、ほんの少しだけ、ローレンスの表情が悲しそうに見えた気がした。
彼はフェリカを「守る」と言ってくれ、それを実行してくれたにすぎないのだ。
不安がる自分を歌で慰めようとしたり、物売りに対して立ち向かってくれた彼にまだ伝えていない言葉があった。
「ありがとうね・・・。ローレンス。」
「・・・・。」
「守ってくれようとしたのは嬉しいの。でもお願い、喧嘩はしないで。それに・・・・ローレンスに人を傷つけて欲しくないし、ローレンスにも傷つかないで欲しい・・・。ここで喧嘩ばかりしてると、特にイクスの暴力沙汰は私もローレンスもここに居辛くなっちゃう・・・。」
彼の育ってきた環境では暴力が解決の最短の手段なのだろう。だがこの国にはそれを良しとしないルールがある。
フェリカの嘆願にローレンスはやれやれと息を一つ吐く。
「なるほどな。ああ分かったよ。ここではお前の言うことを聞いてやる。」
「ごめんね、なるべくトラブルに巻き込まれないように、私も気を付けるし、勉強するから・・・。」
自分が上手くトラブルを回避し解決する方法さえ知っていれば、不当なお金や暴力以外に穏便に治められる方法はあったはずだ。世間知らずな自分がとても悔しい。
日が沈み、暗くなる街に明かりが灯り始める。
「最悪な1日の終わりになっちまったな。」
「うん・・・・。」
「また変な奴に絡まれないよう家まで送ってやるよ。」
「ありがとう。・・・ごめんね。守ってもらう側なのに、あんな風に偉そうな事言って。」
「もう謝るな。それに、お前の知識やらで俺が喧嘩する必要がなくなる事を期待してるぜ。」
この日は家の近くまでローレンスに送ってもらい、明日の約束をしてその日は笑顔で解散となった。
◆◇◆
広場での一件以降、ローレンスはフェリカの側を離れないようになった。
何かあるかもしれないと判断するとフェリカを庇うような素振りを見せる。
頼りないガイドで申し訳なく思う反面、騎士に守られているようで内心嬉しい気持ちと、昨日見たあの冷徹な目を思い出し不安・・・というか心配な気持ちを抱いていた。
そうだ。自分がしっかりしなくては。昨日そう約束したじゃないか!浮かれている場合ではないぞフェリカ。
周囲に気を配りつつ、トラブルを未然に回避して・・・。ああ、それにしても脚が痛い。
「フェリカ、あまり無理するな・・・。」
「ありがとう・・・。」
フェリカの脚の疲労がまだ癒えないため、祭りの開催区画まで赴いた後は歩き回る事は控え、催し物を見物したり、休憩できる場所で二人話すことにした。
特に、街の広い運河で行われた水上レースを観戦するローレンスは今まで以上に楽しそうに見えた。
また、パンのコンテストでは二人違う屋台で買ったパンを半分づつ交換することにした。
少し下手に分けてしまったが、食べ盛りそうなローレンスに大きい方をあげた。
「サンキュー。」
ローレンスはそれを受け取ると、大きさの違いに気付いたのか今度は自分が買った方を不均等に分け、大きい方をフェリカにくれた。
「こんなにいっぱい・・・。あ、ありがとう。」
二人でパンにかぶり付く。
「お前の選んだやつ、美味いなこれ!」
焼きたてのパンを美味しそうに頬張る横顔はまだ彼が子どもなんだと思わせた。
そんな彼を見ながら、まだ確認していない事があることをフェリカは思い出す。
「そういえば、ローレンスは兄弟はいるの?お兄さんとか。」
確かめたかったのだ。幼い頃自分を助けてくれたあの人の面影を感じる彼は、何か手がかりを持っているかもしれないと。しかしローレンスの回答はフェリカの期待を裏切るものだった。
「兄弟?・・・・・いないな。家族居たらこんな歳で傭兵なんてやってないしな。」
「そう・・・。」
落ち込みながらも思い返す。彼は傭兵。そして育ての親がいると。つまり本当の親ではない。
彼がいつから親元を離れ、戦場を駆けるようになったのか分からない。もしかしたら彼が知らないだけで歳の離れた生き別れの兄がいるのではないか?
真実かも分からない妄想(ドラマ)がフェリカの頭の中で進み始める。
戦争で家族と離れ離れになる幼いローレンス。孤児になりお腹を空かせてうずくまっているそんな彼を拾う白髪の軍医。本来は薬の実験体のつもりで拾ったのだが、彼に戦闘力を見出し以下略。
傭兵として生きるローレンスはある事をきっかけに、自分には生き別れの兄がいることを知り以下略。
「・・・リカ・・・フェリカ!おい!どうした!?大丈夫か!?」
「・・・・・。」
ローレンスの呼びかけにきょとんとした顔で目線を合わせる。
「どうしたんだ一体・・・。突然遠くを見つめだして動かなくなったから何事かと思ったぞ。」
困惑しているローレンスの目を見つめながらフェリカは頷く。
「大丈夫、いつかきっと会えるよ。」
「何に・・・?兄弟?」
フェリカはどこか慈しみを感じるような表情だった。
◆◇◆
「おっ!良さげな店があるな!」
改め街の散策中、ローレンスは見つけた店に意気揚々と入店した。
大人びた雰囲気の店内にはびっしりと酒樽やワインボトルが陳列されている。
「・・・ローレンス、ここお酒のお店。」
怪訝な顔をするフェリカに構わず、何本か選んだワインボトルをカウンターへ持って行く。
「これくれ。」
「法律上、未成年にお酒は売れないんですよ。大人になってからまたいらしてください。」
「・・・・・・。」
再び二人、何も持たず店を出る。
「あーーーもう!!なんなんだ未成年って!何も買えねぇじゃねぇか!!」
「だって、ローレンスはまだ子どもでしょう?お酒飲んじゃダメだよ。」
駄々をこねるローレンスにフェリカは冷たい目を向ける。
「・・・まさか、いつも飲んでる?」
「そりゃあ・・・ァッ、チガウ。ユウジンのミヤゲ。」
今ちょっと目を逸らしたな。ローレンスの手を掴んでスタスタと店から引き剥がす。
「くっそ~~!なんて不便な体なんだ・・・!」
嘆くローレンス。
後で子どもでも買える美味しいジュースを買うことにした。
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