戦の神とエテルマリアの少女
Work by ネオかぼちゃ
翌年の祭りの初日、フェリカは約束の神殿で彼を待っていた。
去年ローレンスが帰った後、フェリカは父の協力のもと、できる範囲で積極的に外の散策を行なった。今年はちゃんと街を案内できるように準備は万端である。
父もフェリカの心の変化にとても驚き、しかし嬉しそうに助力してくれた。
そんな事もありフェリカはこの日をとても楽しみにしていたのだ。
「よおフェリカ。前より少し大人びたな!」
聞こえた彼の声に心が弾む。彼が笑顔で歩いて来る。
ローレンスはこの1年で身長も伸び大人びていた。それと同時にその姿が記憶の男性に近づく。
だが何よりも約束を守ってくれた事、声をかけてくれた事が嬉しくも照れくさく感じた。
「あの、ローレンスも。・・・無事に会えて、良かった。」
フェリカは読んでいた本を閉じ、ローレンスに向き合う。
新しい靴と洋服は似合っているだろうか。髪も綺麗にセットした。彼の目に自分はどう映るだろうか。
「今年はちゃんと街を案内できるから、・・・安心してね。」
「迷いながら歩くのも悪くないが、任せたぞ。フェリカ。」
久しぶりの再会だが挨拶もそこそこに街へ繰り出す。お互いの話はこの7日間で充分できるだろう。
建物に囲まれた細い近道を通り、今日の祭りの区画を目指す。
目的地への道中、普段通りに生活している人々や街並みを眺めながらフェリカは探索の成果を披露する。
「ここはミレノ通り。カエデの並木が綺麗でもう少しするといい香りがするの。いつも白い猫がいるんだけど、今は人が多いからいないみたい。」
「ここはカメリアさんのお店。花壇がすごく可愛いでしょ。おばあさんなんだけど毎日自分で世話してるんだって。それに焼きたてのパンがすごく美味しいの。」
「ここはお庭がすごい綺麗で・・・。」
フェリカは確かに街の説明ができるようになっていた。のだが・・・。
「へぇ。なんか、花が色々あるんだな。」
ローレンスには街中に花があるという情報しか入って来なかった。
「・・・そしてあの通りには温泉があるんだけど・・・。」
「ほう、温泉?いいな。どこだ?」
分かりやすいくらい興味を示している。
「あそこを曲がった通りと、遠いけどあっちの方と観光街にこういう建物があるから、今日の夜行ってみると良いよ。」
「ああ、そうさせてもらう。」
ローレンスから何の匂いもしないことが不思議だったのだが、どうやら温泉好きだからなのかもしれない。
「ここはレーネ公園。昔の市長の名前から来てるんだって。秋ツツジの花がたくさん咲いてるの。このお花ってこうやってガクの部分から蜜が吸えるんだよ。・・・でもツツジの仲間には毒がある種類があるから、何でも吸っちゃダメだよ。」
そう言いフェリカはローレンスにもツツジを渡す。
こんもりと咲いているツツジの植木の前、二人並んで咲いている花を眺めながら蜜を吸っていると小さな黒い生き物が目に留まった。
「あ・・・、蟻・・・。」
途端、花を咥えたローレンスが隣で吹き出していた。
「次はあのお店、あそこのお菓子を買おう。」
フェリカの示す店を訪れる。
「良い匂い。」
扉を開けるとたっぷりと焼き菓子の匂いが一気に鼻に入り込む。その甘い香りにフェリカは幸せな気分になった。
商品棚にはパイやタルト、ビスケットなど、山積みにされた沢山の焼き菓子が並んでおり、どれもとても美味しそうだ。
その中のトルテ・ディ・マージという銘菓の切り分けられたピースを買い、二人で食べながら歩く。
「これは切り分けたピースのどれかに陶器の小物が入ってて、小物が入っていた人はその1年良い事があるっていう伝統のお菓子だよ。」
「あ~~~・・・、なるほど。さっき食った硬いのってそれか・・・。」
ローレンスがしまったといった雰囲気で呟くのをフェリカは聞き逃さなかった。
確かにさっき隣からバキバキゴリゴリ聞こえたと思ったら・・・。
「ローレンス?陶器食べたの?お腹に悪いから、ぺっした方がいいよ。」
「大丈夫だ。これくらいじゃ腹は壊さねぇ。」
「以前にも何か食べた事あるって事?大丈夫なら、良いけど・・・。お腹痛かったら言ってね。」
粉砕されてしまった幸せを運ぶはずの小物が、彼の消化器官をズタズタにしない事を祈った。
「・・・・もしかして、ローレンスはドジ・・・なの?」
「まさか。さっきも今回も、たまたま当たりを引いただけだろ。」
他にも思い当たる節はあったが、フェリカはそっと胸にしまった。
それからまたしばらく歩いていると唐突にローレンスが尋ねる。
「フェリカ、どこか痛いのか?」
「え・・・。」
「ちょっとそこに座れ。」
言われた通り近くのベンチに腰掛ける。
実は新しい靴が合っていなかったようで踵に痛みを感じており、それをずっと我慢していたのだ。
「なんで分かったの?」
「なんとなく。・・・血が出てるな。ハンカチあるか?」
ローレンスはハンカチを受け取ると手際よくフェリカの足に巻く。
普段はあまり周りを気にせず、怪我も「唾つけときゃ治る」というような人物かと思っていたので、意外なローレンスの行動にフェリカは少し驚いた。それと同時に脚に触れて治療されていること、意外な優しさに鼓動が高鳴る。
「ありがとう・・・。」
「あくまで応急手当てだからな。・・・さて、靴を買いに行くぞ。背負って行ってやろうか?」
「それは恥ずかしいからヤダ。自分で歩けるよ。」
その後二人で行った靴屋で購入した新しい靴はフェリカの足にぴったりと馴染んだ。
「今日は楽しかった。」
「ああ、俺もだ。街の案内ありがとな。エテルマリアは豊かで平和なんだな。」
花で彩られたオレンジ屋根の街は美しく、そこに住む人々は穏やかに笑顔で過ごしていた。
外部からはこの街を好きな人々がこれほど訪れ、催しや商いで溢れている。
「ローレンスは・・・エテルマリアは好き?」
「・・・ああ、ここは良いと思うぞ。活気があるし、飯は美味いし、お前といるのも楽しいしな。平和は退屈だと思ってたが悪くない。」
ローレンスの思わぬ言葉にフェリカは顔を赤くする。
「そ、そう。良かった・・・。今はお祭り期間で、普段のエテルマリアより元気だけど・・・気に入ってくれたなら、嬉しい。」
「おう、また明日も頼むぜ。」
そう言ってニカっと笑い、手を振って去っていった。
ローレンスと別れた後、フェリカは新しい靴を見やる。
「ふふ。」
この日は足取り軽やかに帰路についた。
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