戦の神とエテルマリアの少女

プロローグ – はじまり

Work by ネオかぼちゃ

「こうして二人は幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。」

優しい声が物語を締めくくり、絵本が閉じられる。
母エルメリンダはそばに寄り添う幼い少女、フェリカに愛しげな眼差しを向ける。
そんな二人を微笑ましく思いながら父ドナートは声をかける。

「エル、体調は大丈夫かい?」
「ええ、今日は朝からずっと調子が良いの。確か今日は礼拝の日よね?支度するから待ってて。」

立ちあがろうとするエルメリンダにドナートは手を差し伸べる。

「よかった。うん、僕も手伝うよ。」
「ありがとうドナート。さぁフェルもお着替えしましょうね。」
「おでかけ?ママもいっしょ?」

母に頭を撫でられながらフェリカは嬉しそうに尋ねる。
エルメリンダの体調が優れず、長らく家族で出かける事がなかったため、久しぶりの家族での外出にフェリカは心を弾ませているようだ。

「そうよ~。今日は神殿に行って、みんなでお祈りをするのよ。」
「シンジェン?カミしゃまにあうとこ?」
「ふふっ、そうね。」

この家族のいつも通りの穏やかな光景。
支度を済ませた親子3人は少し遠くの潮の匂いを感じながら神殿へと向かった。



◆◇◆


ここはローヴライン共和国の都市の一つ、エテルマリア。
いくつかの区画に分かれたそれなりに大きな港街で、平らな地形、街なかを通る大きな運河とその周辺に細かい水路がある。オレンジ屋根の建物が立ち並び、また、「花の街」と呼ばれるほど街には花が多く、ガーデニング好きな人が多い。
この国では創造神アルを最高神とし、それに連なる神々を崇めるユノン教が信仰されており、今日のお祈りはその習慣の一つである。


親子3人が神殿へ来てしばらく、フェリカは一人両親から離れ建物の中を散策していた。
両親も周りの人々も静かに神官の話を聞いている。しかし状況がよく分からないフェリカにはそれが退屈に感じていた。
そんな折、神殿内に目をやると何やら向こうに綺麗な光が見え、それに惹かれてぽてぽてと、誰にも気付かれないまま一人で歩いて来てしまったのだ。
ステンドグラスの光が宝石のように散りばめられている床や、でこぼこした壁のレリーフ、木のように枝分かれした燭台はまだ幼いフェリカの好奇心を刺激した。
台の上の装飾に触れようと布を引っ張った途端、背後から強く引っ張られた。

刹那、鋭い金属音とガラスの破裂音が響き渡る。

目の前には床に散らばる色とりどりのガラスの破片と燭台。どうしてかガラスが無くなった窓。
何が起きたのか理解できないまま、フェリカは自分を引き寄せた人物を見やる。黒い髪に綺麗な青い瞳の色白の男だった。
幼いながらもフェリカには彼が周りにいる人達と同じ人間のようには感じなかった。
ここは神殿で、お母さんは神様に会えると話していた。という事はこの人は・・・。

「カミしゃま?」

その問いかけに男は驚いたようにフェリカの顔を見てふっと微笑んだ。
紫の混じった綺麗な青い瞳だ。

「フェリカ!!」

フェリカを探しに来ていた両親が血相を変えて駆け寄り、彼女を抱き寄せる。
近くに通りかかっていた人の目撃証言により、男がフェリカを庇ったのだと知った両親は何度もお礼を言った。

「ありがとうございます!娘を助けてくれて!何とお礼をしたら良いのか・・・。」
「ほら、フェリカもありがとうって言いなさい。」
「?・・・ありがとお・・・」

男は背中のガラス片を払うと、礼に対して特に何も言わずに神殿の外へ出ていってしまい、フェリカはキョトンとした顔のまま、母の腕の中でその背中を見送るのだった。

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